A5判
(イギリス)
ヒュー・ロフティング 作・さし絵
南條 竹則 訳
国書刊行会
¥1,890(¥1,800+税5%)
「ドリトル先生物語全集」の番外編(短編集)
「ドリトル先生物語全集」(岩波書店)の番外編で、国書刊行会から発行されています。短編集です。
1932年(昭和7年)発表。
国書刊行会からの第一刷発行は、2002年(平成14年)です。
ガブガブが『ドリトル先生のキャラバン』で広言した本
「ドリトル先生物語全集」の6冊目の『ドリトル先生のキャラバン』の第一部で、ガブガブは、食べ物に関する本を書き上げると述べています。終わりごろでは、十巻に渡る『食物百科辞典』を書いているという文章もあります。
作者ロフティングが、ガブガブのこの言葉を実現させるべく、8冊目の『ドリトル先生月へゆく』と9冊目の『ドリトル先生月から帰る』の間に発表したのが、この『ガブガブの本』です。
辞典形式ではなく、団らんの様子を加えた記録に
この『ガブガブの本』は、ドリトル先生の動物の家族の一員であるブタのガブガブが、ドリトル先生に教えてもらった「ドリトル式ブタ・アルファベット」で書き上げた原稿を、ドリトル先生の助手のトミー少年が人間の言葉に訳した、という設定になっています。
但し、いろいろな事情からガブガブが書いたものをそのまま訳したのではなく、ドリトル家の夜のだんらんの時に、ガブガブが他の動物の家族たちに語ったものを記録した、という形になっています。
このガブガブの「朗読」の時の、他の動物たちと交わした会話をそのまま書き留めたとされていて、わいわい、がやがやとした賑やかなドリトル・ファミリーの団らんの様子が目に浮かぶ文章で綴られています。
ガブガブが辞典形式で書いたものを、このような形に変更した理由については、最初の章で詳しく語られています。
ドリトル先生は登場せず
また、ガブガブが主役の本のせいか、ドリトル先生は会話に加わらず、姿も現しません。ガブガブを中心にして、ドリトル先生がいない時の動物の家族たちのみで語られる本です。
「ドリトル先生の番外編」という言葉から、本編にはないドリトル先生の姿が描かれていると勘違いしないように、ご注意ください。
但し、『ジョン・ドリトル先生は二階の書斎で水槽をいじっていました』という一文が、「第七夜」にあります。
「第一夜」から「第十夜」までに章立て
この本の物語には、一般的な短編集のような、固有のタイトルはついていません。夜のだんらんの時の語り、という形なので、「第一夜」「第二夜」「第三夜」・・・というように章立てされて、「第十夜」まであります。
(館長はこの目次を見て、一瞬、シェークスピアの『十二夜』を連想しました。「第四夜」ではガブガブがシェークスピアに言及します。作者の頭の中にもちらっと『十二夜』のことがよぎったかも知れない、と館長は想像しています。)
この「第一夜」から「第十夜」までは、トミー少年が人間の読者にとっておもしろそうなものを厳選した、ということになっています。
各章の内容
「第一夜」は、この本の成り立ちと、「食物地図」について少々語られます。「第二夜」は、食物の発見史や「小石のスープ」というエピソードについて。
「第三夜」は、「薔薇戦争」を連想させる「トマト戦争」について。
「第四夜」は「食べ物ミステリー」で、冷蔵庫探偵シャーベット・スコーンズが登場。「第五夜」は「第四夜」の続き。
「第六夜」は「食べ物寓話」で、舞台がペルシアの「アラビアン・ナイト」風のストーリー。
「第七夜」は、名づけて「ピクニック叙事詩」を書いたいきさつを語るもの。
「第八夜」から「第十夜」までは、その「ピクニック王グズル」の物語です。
「第四夜」と「第五夜」は続き物で、「第七夜」から「第十夜」まではグズル王関係なので、独立した読み物としては、六つということになります。
この本全体が、洒落やパロディの嵐
作者ロフティングは、本編では書けなかったユーモアを、この本にたっぷり注ぎ込みました。
古今東西の食べ物に関する知識を披露するに当たって、ガブガブを狂言回しにして、歴史、ミステリー、アラビアン・ナイト、叙事詩などを面白おかしく創作した上に、登場人物の名前も、多くが食べ物のパロディです。
もちろん、原書は英語なので、日本語に訳すに当たって、訳者の南條さんは、かなり苦労されたようです。
英語でなければピンと来ない洒落もたくさんあるということで、巻末には『面白い人名や、パロディにされた詩句』の原語を一覧表にして載せてあります。
「シナモン・バン卿」や「カラメル・カスタード伯爵夫人」「オレンジ家の直系子孫マーマデューク・マーマレード卿」などは、一覧表を見なくても楽しめます。
名探偵シャーロック・ホームズのパロディも
また、「第四夜」と「第五夜」の探偵「シャーベット・スコーンズ」が、名探偵シャーロック・ホームズのパロディであることは明白です。
館長は、本編の数々のエピソードから、作者がホームズのファン、またはホームズシリーズの愛読者ではないかと想像していましたが、このシャーベット・スコーンズ探偵の登場で、それが裏付けられたと思っています。
井伏訳を尊重し、南條色を付け加えた訳
本全体を通しての南條さんの訳は、本編の井伏鱒二訳を尊重しているので、本編を先に読んでいる読者にも違和感はないと思います。
また、「前」に「ぜん」とルビを振ったりして、現在ではあまり使わない読み方をさせて、明治時代の漱石・・・とまでは行かなくても、古い時代のニュアンスを意識して取り入れて、訳されているようです。
大作家を気取るガブガブ
本編の『ドリトル先生物語全集』では、お笑い担当で道化役を演じているガブガブは、この本では主役なので、ドリトル先生のお古らしい、べっこう縁のレンズなし眼鏡をかけて、大作家を気取っています。
称号も、勝手に博士号を付けて、「サラダ・ドレッシング博士」と名乗り、話し方も本編よりずっと気取っています。字面で見ても、会話にはやたらと漢字が多く、食べ物のことばかり言うのは本編と同じでも、まるで別人(別豚)のようなイメージです。
洒落やパロディに加えて、この言い回しの格調高さ(?)により、本編よりも対象年令が上がることになると思います。
さし絵は作者のもの
さし絵は、いつもと同じで作者ロフティングの手になるものです。大げさにデフォルメされた、ガブガブ創作の物語の登場人物の姿が見ものです。
館長としては、実在の動物らしい、「育ちの良いブタの貴婦人パトリシア・ポートリー」の肖像画が、気に入っています。
「小石のスープ」はドラマ「大草原の小さな家」にも登場
「第二夜」では、ロシアでの話として、「小石のスープ」が物語られます。この話は、以前NHKテレビで放送されたドラマ「大草原の小さな家」シリーズの「石のスープ」という回で、おおむね同じ内容の話が語られて、協力を請う内容でした。
インターネットで調べてみたところ、フリー百科事典ウィキペディアでは、ポルトガルに伝わる民話と出ていました。ヨーロッパ各地に似たような民話があるそうです。
ヨーロッパや英語圏ではよく知られている民話なのかも知れません。
『ガブガブの本』の「第二夜」では、協力を請うのではなく、スープを作り出した兵隊の頭が良かった、という結論になっています。
このように、『ガブガブの本』では史実や民話を取り混ぜて、ガブガブ自身の創作が語られています。
作者のユーモアを楽しんで
本編の12冊とは一味違っていて、作者の遊び心があふれている本です。ガブガブたち、ドリトル・ファミリーと共に、言葉遊びやパロディを理屈抜きで楽しんでいただきたい本です。
作者ロフティングについて
作者ヒュー・ロフティングは、1886年(明治19年)、イギリスのメイドンヘッド生まれ。子どもの頃から動物好き。16才で渡米し、マサチューセッツ工科大学に入学。卒業せず、イギリスへ帰り、ロンドンの工科大学へ。
土木技師となり、1912年(大正元年)にアメリカで結婚。第一次世界大戦に従軍し、「ドリトル先生」の物語を思いつきます。
1920年(大正9年)に第一作の『ドリトル先生アフリカゆき』をアメリカのストークス社から出版。以後、次々に「ドリトル先生」の物語を出版。
1947年(昭和22年)10作目の『ドリトル先生と秘密の湖』を完成後、9月20日、アメリカのサンタ・モニカで死去。
ロフティングや、「ドリトル先生物語全集」についてもっと知りたい方は、「ドリトル先生物語全集」と作者についてのページをご覧ください。
訳者の南條竹則さんについて
著者の南條竹則さんは、1958年(昭和33年)東京生まれ。東京大学大学院英語英文学修士課程を修了。英文学者、作家。
『酒仙』(新潮文庫)で第五回の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
他に、『万漢全席』(集英社文庫)、『恐怖の黄金時代ー英国怪奇小説の巨匠たち』(集英社新書)などの著書、『怪談の悦び』(創元推理文庫)、『幽霊船』(国書刊行会)などの訳書があります。
このサイトで先に紹介した『ドリトル先生の英国』の著者でもあります。
国書刊行会から出版、年令指定はなし
国書刊行会から出版されています。特に年令指定はされていません。
本編の「ドリトル先生物語全集」(岩波書店)の年令指定は、小学3、4年以上です。但し、先に述べたように、この『ガブガブの本』には洒落とパロディがあふれているので、小学3、4年では読みこなせません。
訳者は井伏訳を尊重していますが、漢字も多く、多分、原書の言い回しが子ども向けではなく、大人を想定しているのではないかと思われます。
ただ、本編を読んだ小学生は「番外編」と聞けば読みたくなると思われるし、訳者もそれを想定してか、漢字にはルビが沢山振られています。
言い回し自体はむずかしくても、おなじみの動物たちが出てくるので、そのおもしろさに釣られて読める子どもたちもいるでしょうから、館長の年令指定は「小学5、6年から」としました。
但し、本編を読まずにこの『ガブガブの本』だけを読むとすれば、年令指定は中学生以上とするところです。
『ガブガブの本』関連のオンライン書店のページ
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(『ガブガブの本』の訳者南條竹則さんの著書
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映画『ドリトル先生不思議な旅』のビデオ
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『ドリトル先生不思議な旅』は、『ドリトル先生アフリカゆき』『ドリトル先生航海記』『ドリトル先生のサーカス』『ドリトル先生月へゆく』などのストーリーを交えたもので、1967年(昭和42年)の映画です。
『ガブガブの本』関連のホームページ
『ガブガブの本』の出版社
国書刊行会
「ドリトル先生物語全集」の出版社
岩波書店児童書編集部
「ドリトル先生物語全集」関連の書籍 『ドリトル先生の英国』の出版社
文芸春秋
「第二夜」に登場する小石のスープについて
石のスープ
(フリー百科事典ウィキペディアのページ)
この物語の舞台であるイギリスの政府公認日本語公式サイト
UK NOWサイト
(イギリスに関するさまざまな情報を網羅)
このページの情報は、国書刊行会のホームページ、「訳者あとがき」、岩波書店の目録、文春新書の『ドリトル先生の英国』(南條竹則 著)などによります。

