菊判(21.8×15.2cm)・小B6判(17.2×12cm)
(イギリス)
ヒュー・ロフティング 作・さし絵
井伏 鱒二(ますじ) 訳
岩波書店
菊判 ¥1,995(¥1,900+税5%)
小B6判 岩波少年文庫 ¥756(¥720+税5%)
「ドリトル先生物語全集」の第十二作(短編集)
「ドリトル先生物語」の12冊目。この全集では唯一の短編集です。但し、番外編の短編集『ガブガブの本』が、国書刊行会から出版されています。
物語の内容から考えた年代順では8番目です。
収録されている作品は、『ドリトル先生アフリカゆき』や『ドリトル先生のサーカス』、『ドリトル先生と月からの使い』の時代のものもありますが、『ドリトル先生の動物園』の時代のものが一番多いので、年代としては、おおむね『ドリトル先生の動物園』の次と捉えました。
1952年(昭和27年)発表。
『船乗り犬』『ぶち』『犬の救急車』『気絶した男』『カンムリサケビドリ』『あおむねツバメ』『虫ものがたり』『迷子の男の子』八編を収録
この巻は、11巻目の『ドリトル先生と緑のカナリア』と同じように、作者ロフティングが亡くなってから(1947年死去)5年後に、出版されました。
この巻には、ロフティング夫人の前書きがあり、それによると、この八編の短編はすべて、作者ロフティングによる元の原稿のままということです。
但し、物語のストーリーや人物の紹介のために、『ドリトル先生と緑のカナリア』の原稿を完成させた、夫人の妹のオルガ・マイクルによる「ドリトル先生とその家族」という短い一文が、掲載されています。
『船乗り犬』は海洋冒険談
『船乗り犬』は、『ドリトル先生の動物園』の時代のお話です。ドリトル先生の動物の家族である犬のジップが、家のない同胞のために設立した施設「雑種犬ホーム」の会員、「船乗り犬」ローバーの冒険談です。
「船乗り犬」と呼ばれるだけあって、海洋冒険談となっています。また、犬のローバーと、少年スヌーキーの友情物語でもあります。
『ぶち』は純血種の犬の身の上話
『ぶち』は、やはり『ドリトル先生の動物園』の時代のお話です。「雑種犬ホーム」の会員ぶちの身の上話です。ぶちは、ダルマシア犬。(ディズニーの映画「101匹わんちゃん大行進」で有名な、斑点のある毛皮の犬です。)純血種の犬です。
この純血種の犬がどのような経緯で「雑種犬ホーム」にやって来ることになったのか、語られます。
『犬の救急車』はジップの発案
『犬の救急車』も、『ドリトル先生の動物園』の時代のお話です。「雑種犬ホーム」の副組織の救急システムについての、楽しいショートストーリーです。犬のジップの発案で作った、病気やけがをした犬のための救急車を巡る騒動が描かれます。
『気絶した男』は、本格的な推理小説
『気絶した男』は、『ドリトル先生の動物園』の時代のお話です。「雑種犬ホーム」の会員、探偵犬クリング(ベルギーで警察勤めをしていた、という設定の犬)が活躍する、大人が読んでもおもしろい本格的な推理小説です。
クリングと共に、ドリトル先生の少年助手のトミー、犬のジップ、雑種犬ホームの会員マイクなどが行動を共にして、謎に挑みます。
この短編集の中では一番長い作品となっています。
『カンムリサケビドリ』はスズメのチープサイドの思い出話
『カンムリサケビドリ』は、『ドリトル先生のサーカス』時代の作品です。カナリア・オペラの準備をしている頃のお話で、ロンドン・スズメのチープサイドの思い出が語られます。
『あおむねツバメ』はアフリカから帰る途中のお話
『あおむねツバメ』は、1冊目の『ドリトル先生アフリカゆき』の、アフリカからの帰路で立ち寄った国でのお話です。ツバメの「韋駄天」のスキマーが登場するショート・ストーリーです。作品中の「新しい女」という言葉が、いろいろな意味で気になる向きもあるかと思います。
『虫ものがたり』はうじ虫の大冒険
『虫ものがたり』は、『ドリトル先生と月からの使い』のドリトル先生が虫の研究に熱中していた頃のお話です。なんと、うじ虫の大冒険が描かれます。
ロフティングの想像力や、ストーリーテラーとしての才能が遺憾なく発揮された、短編の傑作です。虫嫌いの方でもきっと楽しめる作品です。
この作品は、短編としては長い方で、この巻では『気絶した男』に次ぐ長さです。
この巻の表紙の絵は、この「虫ものがたり」のさし絵です。
『迷子の男の子』はサーカス時代のお話
『迷子の男の子』は、また、『ドリトル先生のサーカス』時代の作品です。ふとしたことから出会った男の子に振り回される、ドリトル先生の一座の様子がユーモラスに描かれます。
『気絶した男』と『虫ものがたり』が特にお勧め
この巻に収録された作品は、どれも個性的ですが、特にお勧めなのは、『気絶した男』と『虫ものがたり』です。
『気絶した男』は、犬の特性を活かした推理小説で、謎をひとつひとつ追いかけてゆく様は、ミステリー好きの大人の読者も楽しめる作りです。
『虫ものがたり』は、奇想天外な「うじ虫」の冒険物語です。どうやってうじ虫が冒険に出るのかは、読んでからのお楽しみですが、人間が主人公の冒険物語と同じようにハラハラ、ドキドキしながら楽しく読めます。
虫、それもうじ虫を主人公にしてこんなおもしろいストーリーを考えることができることに、感心します。さすがはロフティングです。
そして、うじ虫に感情移入(!)することによって、他のドリトル先生の物語のように、物事を動物からの新たな視点で見ることができます。
この巻のロフティング夫人の前書きによると、この『虫ものがたり』はロフティング自身、とても気に入っていて、長編の中に組み入れるつもりだったそうです。
短編集なので、気軽に楽しめる巻
この巻に収録された短編は、『虫ものがたり』のように他の巻に収録されるべきと思われるエピソードが、なんらかの事情で収録されずに終わったものや、他の巻の続きなどの作品と考えられます。
しかし、初めて読む人のために、義妹による説明文がありますので、特にそのような事情を考慮せずに、ひとつひとつの作品を、独立して楽しめると思います。
ただ、全集のうち、一冊でも読んで、動物たちやドリトル先生の人となりを知っていれば、もっと楽しめることでしょう。
短編集なので、あまり時間のないときでも、楽しく気軽に読める巻です。
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