菊判(21.8×15.2cm)・小B6判(17.2×12cm)
(イギリス)
ヒュー・ロフティング 作・さし絵
井伏 鱒二(ますじ) 訳
岩波書店
菊判 ¥1,785(¥1,700+税5%)
小B6判 岩波少年文庫 ¥756(¥720+税5%)
『ドリトル先生のキャラバン』のあらすじ(冒頭部分のみ)
ドリトル先生は、前団長のブロッサムが残したサーカス団の新しい団長に選ばれました。ドリトル先生の意向により、「ドリトル・サーカス団」は、団員たちに給料を払うやり方ではなく、利益を公平に分ける協同組織になりました。
この方法だと、興行収入が少ないときはお金がもらえず、食事ができるだけです。しかし、この方法を支持する者たちだけで構成されているので、不平を言うものはいません。
サーカス団の誰もがドリトル先生を信頼し、先生が一座を盛り立ててくれるだろうと考えていました。
この信頼に答えて、初のロンドン興行を成功させるために、新しい演目を考えていたドリトル先生は、散歩へ出かけた折りにカナリアの美しい鳴き声を聞きます。
ドリトル先生はマシューに頼んで、その緑のカナリアを動物屋から買ってきてもらいました。それは、世間では「鳴かない」とされていた雌(めす)のカナリアでしたが、当のカナリア・ピピネラは、そんなことは「なまいきな雄(おす)たちの、つくり話」と一笑に付します。
ピピネラが言うには、雌のカナリアの方がずっと良い声なのだそうで、実際ピピネラの声はとても美しいものでした。
そしてピピネラが語る半生は素晴らしくドラマチックだったので、それを聞いたドリトル先生は、「カナリアのオペラ」という演目を考えつきます。
動物たちの福祉を考えた楽しい「ドリトル・サーカス」
この『ドリトル先生のキャラバン』は、『ドリトル先生のサーカス』からの続きの物語になります。『ドリトル先生のサーカス』で入れてもらったブロッサムのサーカス団にはいかさまがあったし、動物たちの待遇にもかなり問題がありました。
しかし、動物たちの福祉を第一に考え、動物語も話せるドリトル先生が団長になったからには、本当に動物たちが楽しんで演じて、お客さんも楽しめる理想的なサーカスが期待できます。
もちろん、ドリトル先生の家族であるおなじみの動物たち、犬のジップ、アヒルのダブダブ、ブタのガブガブ、フクロウのトートー、それにサーカスで加わった犬のスイズルとトビーによるお芝居という楽しい演目もあります。
しかし、ひょんなことからドリトル先生の一家にやって来たカナリアのピピネラが、この巻でスターになります。
ピピネラのドラマチックな半生がオペラに
カナリアというと、「かごの鳥」という言葉を連想します。しかし、かごの鳥のはずのピピネラのこれまでの半生は、なまじの人間も叶わないほどドラマチックなものです。
作者ロフティングは、カナリアの視点から当時の人々のさまざまな暮らしを描いたばかりでなく、不穏な社会情勢までも盛り込んでいます。
それにピピネラの恋愛まで描かれていて、ドリトル先生でなくても、「これはオペラにぴったり」と納得する題材です。
この物語では、「カナリア・オペラ」がメインです。
チープサイドも活躍
主役のプリマ・ドンナが決まっても、それだけではオペラはできません。当然、他の配役やバックコーラスのために、いろいろな種類の鳥たちが必要です。
どのような鳥の声がその役柄に合っているのか、どうやって探せばいいのかなど、ドリトル先生の相談役としてロンドン生まれのすずめ、チープサイドが活躍します。
配役が決まった後のコーラスの練習でも、指揮の仕事を任せられ、ドリトル・サーカスのために協力してくれます。粋の良さが抜群で、べらんめえ言葉が玉にキズのチープサイドは、ドリトル一家の「準」家族とも言えます。
このチープサイドが、ペリカンのコーラスを指導する場面でさし絵が掲載されています。この絵にチープサイド自身は描かれていませんが、並んだペリカンたちの足取りがとてもユーモラスで、館長のお気に入りのさし絵の一つです。
ドリトル先生変装の冒険も
この巻は、「カナリア・オペラ」がメインですが、これまたユーモラスなさし絵が登場するドリトル先生の冒険が一つ語られます。
オペラの配役を探している時に出会った、悪い動物屋がその舞台です。ひどい待遇を受けている動物たちを救うため、ドリトル先生が一肌脱ぐことになります。
もちろん、こういう場合、いつも先生を助けてくれる友人マシュー・マグの手も借ります。そして、道化師の犬であるスイズルの忠告を入れて、ドリトル先生はある変装をしてでかけます。
この辺りはハラハラ、どきどきの場面といえなくもないのですが、ドリトル先生の変装とさし絵がなんともユーモラスで印象に残ります。
名バイオリニスト、パガニーニ登場
紆余曲折を経て、カナリア・オペラは初日を迎えます。観客には名バイオリニストとして有名なパガニーニが顔を見せます。
『ドリトル先生の郵便局』でコロンブスや、実在の画家を登場させたように、作者はこのシリーズにちょくちょく実在の有名人を登場させています。それがこの物語に、楽しさと真実味を添えているように思います。
カナリア・オペラを鑑賞したパガニーニは、ドリトル先生に面会を求め、このオペラを「やさしくて、素朴で、自然」と高く評価しています。
ドリトル先生にも音楽の素養が
そしてこの巻では、ドリトル先生自身にも音楽の素養があることが改めて言及されます。
『ドリトル先生航海記』の冒頭で、ドリトル先生が「笛」の演奏をする場面がありますが、この巻ではその「笛」が「フルート」であるとはっきり書かれています。
そして、鳥たちの歌声を聞いて楽譜に書き取ることができるなど、音楽の素養があることがわかります。だからこそ、鳥の歌声をそのまま採用したオペラを作ることができたのでしょう。
ドリトル先生は、多彩な才能の持ち主です。
エンディングは夢がいっぱいの「究極のファンタジー」
この巻のエンディングは、サーカスの協同組織としての特徴が描かれます。人間どころか、動物もまったく差別しないドリトル先生のことですから、収入が入ればみんなで分けようと思うのは当たり前です。
その分け前をどのように使うのか、それは人それぞれ、動物それぞれ。
このくだりは、ある意味で「究極のファンタジー」と言えるし、夢がいっぱいの楽しい展開になっています。
後年『ドリトル先生と緑のカナリア』に発展
そして、この巻でもカナリアのピピネラの半生にはかなりのページ数を使っていますが、作者はそれでも足りないと思ったようで、後年、『ドリトル先生と緑のカナリア』でもっと詳しく語られています。
作者は、ピピネラに強い思い入れがあったのでしょう。
『ドリトル先生と緑のカナリア』は、完成間近の原稿を残して作者が他界したため、義妹が少し手を入れて、1948年(昭和23年)に発表されています。
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