小B6判(岩波少年文庫)
(イギリス)
ルーマー・ゴッデン 作
堀内 誠一 絵
瀬田 貞二 訳
岩波書店
¥672(本体価格¥640+税5%)
『人形の家』のあらすじ(冒頭部分のみ)
木製のオランダ人形の「トチー・プランタガネット」は、デーン家の幼い姉妹、エミリーとシャーロットの子ども部屋で暮らしていました。トチーは、この姉妹のひいおばあさんの人形だったので、もう百年も生きています。
エミリーとシャーロットは、他のふたつの人形をトチーの両親に見立て、「プランタガネットさん」「プランタガネット奥さん」とし、「プランタガネット奥さん」には「ことりさん」という呼び名もありました。
それから、トチーの弟の「りんごちゃん」と、飼い犬の「かがり」もいます。
「プランタガネットさん」はせともので出来ていて、以前の持ち主に冷たく扱われていたところを、エミリーに助けられました。
「プランタガネット奥さん」の「ことりさん」は、セルロイド製で、シャーロットがあるパーティでもらって来ました。紙風船やおもちゃが入っている「クラッカー」に糸で結わえ付けられていました。
弟の「りんごちゃん」は、フラシ天という布で出来ていて、犬の「かがり」は、かがり針を背骨に使い、ヒツジの毛を巻いて作られていました。
エミリーとシャーロットに大事にされて、この人形の一家は幸せに暮らしていました。しかし「人形の家」がなくて、二つの靴の箱に詰め込まれているのが、悩みの種でした。
1947年発表の『人形の家』を舞台にした傑作
この物語は、1947年(昭和22年)に発表されました。今から半世紀以上前の作品ですが、古くささは全くありません。また、「人形」や「人形の家」という子どものおもちゃを題材にしていて、10才ぐらいの子ども向けの作品でありながら、おとなが読んでも強く心に訴えるものがある名作です。
この作品の中には、「黄金律」というべき言葉が随所に散りばめられています。
ストーリー展開は、子どもの生活と人形たちの生活(?)を巧みにオーバーラップさせて、幼い子どもを無理なくこの物語の世界に引き込むこようになっていますが、この作品には、人生の縮図が「人形の家」を借りて物語られています。
人形の家(ドール・ハウス)は16世紀のヨーロッパがルーツ
この物語に登場する人形の家、ドールハウスは、16世紀ごろにヨーロッパの貴族が作らせたものが起源で、始めは工芸品として、また上流階級の家庭の子どもたちに室内装飾などを学ばせる、教育的な意味合いもあったようです。
時が経つにつれて、アンティークとしての価値もプラスされるでしょう。しかし、おとなの思惑がどうであれ、この『人形の家』で描かれているように、現代の子どもたちにとっては、ままごとの大切な道具です。
何が本当に大切なことなのか、作者の強いメッセージが
この作品では、その「人形の家」を舞台に、悩みや希望、願い、ショック、満足、不安、危険、悲しみ、平安など、さまざまな出来事による喜怒哀楽が描かれます。
人生で何が本当に価値のあることなのか、何が本当に大切なことなのか、読者に強く深い印象を残すことと思われます。
小学生の読者は小学生なりに、たとえ明確に言葉で表現することができなくても、作者のメッセージを心に刻むことでしょう。
作者ゴッテンの、平易な文章で人生を物語る傑出した才能
館長は、おとなになってから読みましたが、子ども向けの物語という形を使って、このように人生を描き出すことが出来る作者の才能に驚嘆しました。作者のルーマー・ゴッテンは、平易な文章を使って人生を物語るという、傑出した才能の持ち主です。
河合隼雄さんが『ファンタジーを読む』で解説
『トムは真夜中の庭で』のページでも紹介した、臨床心理学者で、文化庁長官(2005年現在)でもある河合隼雄(はやお)さんの著書『ファンタジーを読む』(講談社+α文庫)でも、この『人形の家』は取り上げられて、興味深い解説がされています。
(この『人形の家』は厳密に分類すると、「人形もの」のファンタジーということになるかも知れませんが、このサイトでは、「人形もの」は童話との区別がつけにくいので、便宜上「ファンタジー以外の物語」の項目に入れてあります。)
他の童話やファンタジー作品とは全く異なる印象の作品です。ぜひ、年令を問わずに、多くの方に読んでいただきたいと思います。
作者ルーマー・ゴッデンについて
作者のルーマー・ゴッデンは、1907年(明治40年)イギリス生まれ。作家。インドで育ち、その後イギリスとインドの両方の国で半々に暮らし、作品も両方の国に取材して書いているということです。インドで一時、バレエ学校を経営したこともあります。
1998年(平成10年)に死去しています。『台所のマリアさま』(評論社)『ねずみ女房』(福音館書店)『ハロウィーンの魔法』『ラヴジョイの庭』(偕成社)、『すももの夏』(徳間書店)など、多数の作品があります。
さし絵画家堀内誠一さんについて
「画」の堀内誠一さんは、1932年(昭和7年)東京生まれ。絵本作家、グラフィックデザイナー。作品に『ちのはなし』(福音館書店)『こすずめのぼうけん』(福音館書店)、『秘密の花園』(福音館書店)などのさし絵があります。1987年(昭和62年)に死去しています。
この『人形の家』のさし絵は、登場する人形たちのイメージによく合っていて、文章と相まって印象的です。
訳者は『指輪物語』の訳で知られる瀬田貞二さん
訳者の瀬田貞二さんは、「ナルニア国ものがたり」シリーズのページでも触れましたが、1916年(大正5年)生まれ。児童文学の創作、翻訳、批評家で、トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』の訳者としても、よく知られています。
岩波書店より出版
『人形の家』は、岩波書店から出版されています。小B6判(岩波少年文庫)で、¥672(本体価格¥640+税5%)です。
1978年(昭和53年)に第一刷が発行された旧版は、現在は「品切重版未定」となり、2000年(平成12年)に新版第一刷が発行されました。
なお、1967年(昭和42年)に菊判(ハードカバー)の第一刷が発行され、版を重ねましたが、現在この菊判は発行されていません。このページの冒頭の表紙画像は、菊判のものです。
以前の菊判には「人形の家」の精密な絵が
菊判の表紙裏には、「人形の家」の内部が精密に描かれた絵があります。現在、発行されている少年文庫には、文中のさし絵は菊判と同様に入っていますが、表紙裏の「人形の家」の内部の絵はありません。
この絵をご覧になりたい方は、図書館か古書店で菊判の本を探してみて下さい。
出版社の年令指定は小学4,5年から
年令指定については、この菊判の奥付けには「小学2〜4年」とあり、少年文庫版の旧版は「小学3、4年から」、新版は「小学4、5年から」となっています。このページでは、新版に従いました。
ほとんどの漢字にルビが振られていて、平易な文章なので、館長の年令指定は、「小学3年から」としました。
このページの情報は、岩波書店の目録、あとがきの「訳者のことば」などによります。