新書判
(アメリカ)
ローラ・インガルス・ワイルダー 作
かみや しん 絵
こだま ともこ・渡辺 南都子(なつこ) 訳
講談社 青い鳥文庫
¥609(¥580+税5%)
(この巻は、福音館書店と草炎社からも刊行)
左の画像はセブンアンドワイのリンク
「大草原の小さな家」シリーズの第一作
「大草原の小さな家」シリーズの1冊目。1932年(昭和7年)発表。発表時、作者ローラは65才。
原作の発表順は、以下の通りです。
(以下のリンクは、このサイト内の各巻の説明ページに飛びます。)
| 書名 | 初版発行年 |
| 大きな森の小さな家 | 1932年 |
| 農場の少年 | 1933年 |
| 大草原の小さな家 | 1935年 |
| プラム川(クリーク)の土手で | 1937年 |
| シルバー湖のほとりで | 1939年 |
| 長い冬 | 1940年 |
| 大草原の小さな町 | 1941年 |
| この輝かしい日々 | 1943年 |
| はじめの四年間 | 1971年 |
『大きな森の小さな家』のあらすじ(冒頭部分のみ)
今から百年も前、アメリカのウィスコンシン州の「大きな森」に、丸太で作った「小さな家」があり、小さな女の子ローラが、両親と姉のメアリーと妹のキャリーと、一緒に暮らしていました。
「大きな森」には、狼や熊やきつね、そして鹿など、たくさんの動物が住んでいて、人の住む家は遠く離れてほんの少しあるだけでした。
夜、ローラがベッドに入ってから、狼が「小さな家」のすぐそばまでやって来て、ほえることがありました。
しかしローラは頑丈な丸太小屋の中にいるし、父さんの鉄砲もありました。そして、忠実な番犬のブルドッグのジャックが、しっかりとローラたちを守ってくれていました。
「大きな森」にけものたちがいても、ローラたちは「小さな家」で楽しく暮らしていたのです。
冬が近づいているので、一家は保存食作りをしています。
父さんが獲って来た鹿の肉を燻製にするために、小さなローラも、ヒッコリーの生木(なまき)の木くずを、エプロンに入れて運ぶお手伝いをします。
やはり父さんがぺピン湖で網を使って獲った魚を塩漬けにしたり、たくさんの野菜や、母さんが作ったチーズを「小さな家」のいろいろな場所に保管したり。
そして、飼っていたぶたも、父さんがヘンリーおじさんに手伝ってもらって解体し、長い冬の間、ローラたちの命をつないでくれる「食料」になりました。
南北戦争後のアメリカ、開拓時代の少女ローラの一年間
この『大きな森の小さな家』は、主人公(兼作者)のローラが4才の秋からの一年間を描いています。第5章の『日曜日』で、ローラは5才の誕生日を迎えます。
『「大草原の小さな家」シリーズと作者について』のページにも書きましたが、ローラが生まれたのは、1867年。南北戦争(1861〜1865)が終わって2年後のことです。日本では、幕末の慶応3年で、翌年には元号が明治に変わります。
ですから、この物語のローラが4〜5才の頃というのは、日本では明治初期に当たります。
この頃のアメリカ政府は、南北戦争の間も戦後も、中西部や北部の開拓を進めていました。申請をして条件を満たせば無料で土地が入手できたので、農地を求めて多くの人たちが移動しました。開拓ラッシュです。
ですから館長は、ローラの父さんも無料で土地を手に入れたのかと思っていました。しかし、サイト「Midori’s room」の「ワイルダー年譜」によると、この物語の舞台であるぺピンの土地は、ローラの「父さん」と「ヘンリーおじさん」が80エーカーの土地を335ドルで買ったということです。
ローラと姉のメアリーは、このぺピンの森で生まれました。
地図上は、中央部に位置するぺピン
物語中では、このぺピンの森のあるウィスコンシン州を「西部」と記していますが、アメリカ合衆国の地図を広げてみると、この州はちょうど国の真ん中あたりに位置しています。
ミシシッピー川を挟んで「東部」と「西部」に分けるそうですが、それにしてもぺピンの森は川の右側。東側です。厳密に言うと、「西部」には入らないような気もします。それとも、川のすぐそばなので、この辺りもひっくるめて、「西部」と呼んでいるのかも知れません。
また、物語中に、ぺピン湖で父さんが魚を獲ってくる場面がありますが、『ローラの思い出アルバム』(岩波書店)によると、このぺピン湖は、独立した湖ではないようです。
『ローラの思い出アルバム』には、このぺピン湖の写真が掲載されていて、『ミシシッピ川が広がって湖のようになっている』という記述があります。
ですから、ミシシッピー川の広がっている部分を、便宜的にぺピン湖と呼んでいるようです。
ローラたちのフィールド、ぺピンの「大きな森」
インガルス一家が居を構えたのは、ぺピンの町から11キロほど離れた「大きな森」の中です。
物語の冒頭の文章から既に、森には狼や熊がいて、特に狼は、幼いローラたち姉妹の住んでいる家の、すぐそばまでやって来て、脅すように吼えているのがわかります。
見渡す限り人家のない中、このような動物のいる場所は、ローラたちのような幼い子どものいる家族が暮らすには、危険すぎる場所のように思えます。
しかし、そのような危惧は、物語を続けて読むと、納得に変わります。ローラには、そんな暮らしでも不安がないことが、すぐに文章から伝わってきます。
ローラの「父さん」は、危険に対する備えをできる限りし、「母さん」は「父さん」を助け、子どもたちはそんな両親を信頼して、大自然の中で楽しく暮らしています。
読者の心配を吹き飛ばす、明るい開拓生活の様子が描写されています。
この巻と現実との違いあれこれ
但し、『ローラ・インガルス・ワイルダー かがやく大草原の日々』(佑学社)によると、ローラの姉メアリーが生まれた頃のぺピンの森は、この物語の記述通りに居住者が少なかったようですが、ローラが4〜5才の頃には開墾が進み、インガルス一家の丸太小屋から1キロほどのところに学校ができていたということです。
冒頭の記述よりも、実際は、開墾が進んでいたようです。
また、物語では、「母さん」が東部出身で、「父さん」と結婚して西部のウィスコンシン州まで引っ越してきたように記述されています。しかし実際には、「父さん」が東部のニューヨーク州で生まれ育ち、「母さん」たち一家が住んでいたウィスコンシン州に引っ越して、知り合いました。
そして、この『大きな森の小さな家』の次の巻の『大草原の小さな家』で、インガルス一家はぺピンの「大きな森」を出て、カンザス州に向かって出発し、二度と「大きな森の小さな家」には戻らなかったということになっています。
しかし、実際は、ぺピンの森から出発したのはローラが1才の頃のことです。しばらく大草原で暮らした後、一家はローラが4才のときに、また懐かしい「大きな森の小さな家」に戻って暮らします。
ですから、この物語に描かれたローラが4〜5才の頃は、確かに一家はぺピンの森に暮らしていたのですが、すでに大草原から戻って来ていました。
自伝的な物語ですが、全くのノンフィクションではないので、すべて事実だと思い込まないように、注意して欲しいと思います。
必要な物は「手づくり」の生活
インガルス一家の生活に必要な衣食住の物は、ほとんどが「手づくり」です。冬に備えての保存食も、家具も、もちろん衣類も。
ローラの眼から、それらの手づくりの過程が、細かく描かれます。料理や洋裁、工芸などの「手づくり」の好きな人や、農業に興味のある人には、とても楽しい文章が続きます。
館長は「手づくり」が好きなので、現在と全く違う、物資が極めて少ない中で、どのような「手づくり」をしていたのか、興味を惹かれ、文章をじっくり味わって読みました。
また、「あらすじ」で述べたように、4才のローラも家の仕事のお手伝いをします。生活の術(すべ)を身につけることの重要性は、現在とは比較にならなかったはずです。
両親は親としての役割をきちんと果たし、子どもたちは小さな誇りを持ってお手伝いをする様子が描かれているのが、とても印象的です。
文章のなめらかさが特徴的
生活のすべてが「手づくり」というと、大変な手間と時間がかります。一つの加工品を作るために、たくさんの作業があり、それを逐一ていねいに述べているので、書き方によっては、説明口調になってしまい、読みづらいこともあるかも知れません。
でも、この巻の4〜5才のローラの視点から描かれている文章は、とてもなめらかです。読みやすくて、その「手づくり」の工程のひとつひとつを楽しんでいる様子が伝わってきます。
森や湖から食料を得て、自分たちでも畑を作り、その労働の収穫物を冬用に加工したり、蓄えたりする様子は、まるで食べ物の匂いが漂ってくるような文章です。
とにかく読んでいて、「おいしそう」「楽しそう」「おもしろそう」という感想が浮かびます。
文章のなめらかさは十回以上の書き直しから
この『大きな森の小さな家』は、ローラが初めて書いた物語です。それ以前は、地方紙などに原稿をよく書いていたローラですが、エッセイと「物語」はまた違います。
ローラは初め、『パイオニア・ガール(開拓娘』というタイトルで、一般向けの小説として書きましたが、その原稿は出版社に受け入れられませんでした。
しかしローラはあきらめず、『大きな森の小さな家』というタイトルで、児童書として書き直しました。
この原稿は、当初、事実に徹底的に即した、伝記のような内容ものでしたが、すでに作家として活躍していたローラの娘のローズ・ワイルダー・レインの助言を受け入れて、物語として構成し直して、何度も書き直しました。
『ローラからのおくりもの』(岩波書店)に収録されているローズの文章によると、『おそらく、十回以上は書き直している』ということです。この巻の生き生きとしてなめらかな文章は、推敲に推敲を重ねたローラの努力の賜物です。
また、同じくローズの文章によると、内容の正確さを期するため、地図を描いて登場人物をそれに従って動かして、自身の記憶を確かめたということです。
なにごとにも誠実な態度で臨む、ローラらしいエピソードです。
身を守るためと、肉を得るための銃
この物語の冒頭で語られる、保存食作りのぶたの解体は、残酷に感じる向きもあるかも知れません。
しかし、肉食が常食であるアメリカ人ですから、食生活に欠かせない肉を得るためには自分たちで調達するしかなく、文字通り余すところなく、頭からしっぽまで食べ切る方法が丁寧に描かれています。
銃についても、「父さん」は子どもたちの目の前で手入れをします。狼やくまから身を守るため、そして肉を得るために、銃は欠かせないものとして、ごく自然に生活の中に取り入れられていた様子がわかります。
現代の「銃社会アメリカ」の背後には、このように、銃を持つことが必要不可欠だった歴史があるということでしょう。
「大きな森」の美しさも
「大きな森」は、危険ばかりではありません。ローラたちの日常の住まいである森の描写もまた、とても美しく、まるでその空気まで感じさせてくれるかのようです。
自然と共に生きて、自然に育てられているローラの心を感じます。
危険なはずの野獣についてさえ、「生命」への賛歌と言えるような記述もあります。ぜひ、ゆっくり味わって読んでいただきたいところです。
娯楽も「手づくり」
インガルス一家は、働いてばかりいるわけではありません。音楽やダンス、親戚同士やご近所の人たちとのつきあいなどを、楽しんでいます。
「父さん」のバイオリンは、シリーズを通して、一家の大きな楽しみのひとつです。
なにしろ、電気が全くない暮らしなので、音楽は「生演奏」に限られます。それがまた、素朴で暖かく、音楽の原点のようで、好ましく感じられます。
「父さん」のバイオリンの技量については、はっきりはわかりません。しかし、『「大草原の小さな家」シリーズと作者について』のページでも述べたように、この巻では、身内のパーティーとはいえ、ダンスの音楽を担当しているので、アマチュアとしてはかなり上手なのだろうと思います。
この『大きな森の小さな家』では、後に発表された『長い冬』で描かれた、歴史に残るような厳しい冬の暮らしの慰めとしての音楽ではなく、「楽しみ」としての音楽が描かれています。
また、第十章では、ぺピンの森では夏が社交の季節と述べられています。この章で、ローラたちの友だちとして、「エバ」と「クラレンス」という二人の子どもが登場します。
この二人は実在の人物で、前述した『ローラの思い出アルバム』(岩波書店)に、二人のかわいい写真が掲載されています。
この巻を書く動機にもなった「父さん」のお話
ローラの「父さん」は、バイオリンだけではなく、子どもたちに、いろいろなお話を語ってくれています。
「父さん」や「おじいちゃん」が、子どもの頃の話などです。
ラジオもテレビもない暮らしの中で、幼い子どもたちには、優しい「父さん」のお話がどんなに楽しかったことか、想像できます。
『「大草原の小さな家」シリーズと作者について』のページでも述べましたが、「父さん」のお話の楽しさが、後年、60才を過ぎたローラに子どもの頃の思い出を書き綴りたいという気持ちを起こさせた、理由の一つになりました。
開拓生活を絵で見るには
ローラの文章は、目の前にその光景が浮かぶように、詳しくていねいです。しかし、全くその「物」を見たことがないと、想像にも限界があります。
この巻で描かれる物たちを、「もう少し具体的に見られたら」と思っていたところ、『開拓時代の生活図鑑』(あすなろ書房)という本を見つけました。
「図鑑」とタイトルされていますが、ロバートソンという一家の春から次の年の新年の行事まで、ストーリーを追って、開拓生活の様子が描かれています。
1840年(日本では江戸時代の天保11年)のカナダという設定です。絵は、鉛筆画で、柔らかな味わいがあります。
この本は『大きな森の小さな家』よりも、30年ほど昔の設定になっていますが、ローラがこの物語の冒頭で持っていた「とうもろこし人形」の絵が掲載されています。その他の、食用以外のとうもろこしの多様な使い方も紹介されています。
『大きな森の小さな家』の中でとてもおいしそうに記述されている、かえで糖(メープルシロップ)やバター、チーズの作り方も、絵と文章で詳しく記述されています。
この図鑑を見ながらバターやチーズを作れるように、「〜をつくろう」というページもあって、「自分もちょっと作ってみようか」と思う人には参考になります。
『大きな森の小さな家』の世界を、具体的に絵で見たいという方には、お勧めの本です。
開拓生活を描いたシリーズの入門編
『大きな森の小さな家』では、歴史の教科書を読んでいるだけではわからない、開拓時代の家族の暮らしぶりが、平易な文章で読みやすく綴られています。
勤勉に働き、人のまばらな開拓地であっても芯の通った価値観に基づいて子どもたちをしつけ、しかも、楽しむことを忘れないインガルス一家は、まるで理想の家族のようです。
実際の開拓生活は、辛いことも多かったことでしょうが、この後発表されるシリーズの後の巻で描かれるようなさまざまな困難は、この巻では、まだ描かれていません。
この巻は、まずはローラたちの生活の基盤を知ることができる、シリーズの最初の一冊です。また、アメリカの開拓者の生活を知りたい人には、とても読みやすい「開拓生活入門書」です。
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☆「大草原の小さな家」シリーズの本の一覧は、こちらのページへ。
☆「大草原の小さな家」シリーズの関連本や、アメリカ開拓時代の歴史・インディアンの文化などについての本は、こちらのページへ。
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『大きな森の小さな家』関連のホームページ
『大きな森の小さな家』のさし絵画家かみやしんさんの公式サイト
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大草原の小さな家のページ
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ローラの釣り
(ドラマのネタバレあり)
このページの情報は、講談社の目録、あとがきの「解説」、『ローラからのおくりもの』(岩波書店)、『ローラの思い出アルバム』(岩波書店)、『ローラ・インガルス・ワイルダー かがやく大草原の日々』(佑学社)などによります。