22×16cm
(アメリカ)
スーザン・クーパー 作
小西 秀子 絵
井辻 朱美 訳
偕成社
¥1,575(本体価格¥1,500+税5%)
『影の王』のあらすじ(冒頭部分のみ)
鬼ごっこをしている少年たち。遊んでいるのではなく、これは劇団のトレーニングです。この少年たちの中に両親を亡くして、ジェン叔母さんと暮らしているネイサン(ナット)・フィールド少年がいました。
鬼ごっこをしているのは、シェイクスピアの芝居を上演する少年劇団の団員たちで、この劇団は、オーディションで選ばれた11才から18才までの少年だけで構成されています。団員たちは、団長のアービーの元で厳しい指導を受けていました。
4世紀前にシェークスピア劇を上演した当時のままに復元された、新しいグローブ座(地球座)で公演するために選ばれたのは、演技、歌、アクロバットの才能に恵まれた、アメリカのトップレベルの少年俳優たちです。
ナットは、「歌」はあまり得意ではないものの、演技とアクロバットの才能があり、特に「アクロバット」は得意でした。
ジュニア劇団で、『ヘンリー五世』の端役に出ていた時に団長のアービーの目に留まり、アービー自らがオーディションを受けるように勧めました。ナットは、見事合格、『真夏の夜の夢』の妖精パック役に選ばれました。
そして、いよいよイギリスのロンドンに乗り込みます。少年たちの多くは、一般家庭にホームスティすることになり、ナットはグローブ座の後援会員、フィッシャー家にホームスティします。
ナットは、フィッシャー家に温かく迎えられ、新グローブ座での最初のリハーサルに臨みます。しかしリハーサル中から体の不調を覚え、その夜、もっと体調が悪くなります。
気分の悪いまま眠り、次の朝目覚めると、そこは400年前のロンドンに変わっていました。
歴史好き・演劇好きにはたまらないファンタジー
『影の王』は、「タイムトラベル」もののファンタジーで、1999年(平成11年)に発表されました。この作品で、ナット少年がタイムスリップするのは、400年前のロンドンです。
しかも、現代で上演することになっていた『真夏の夜の夢』のパック役を、できたてのグローブ座で演じることになります。歴史好き、演劇好きの読者には、とても興味を惹かれる設定です。
特筆すべきは、400年前の生き生きとしたロンドンの描写
このナットが選ばれて過去へ行くことになる理由を、作者は納得の行く形で用意していますが、この作品の一番の魅力は、そのような筋立てではなく、当時のロンドンの描き方にあると思われます。
当時のロンドンの人々の風習や建物、食べ物に至るまで細かく、まるで目の前に浮かぶかのように記述されています。新築されたばかりのグローブ座についても、こと細かく描かれています。
それが現代から紛れ込んだナットの目を通して、ストーリーに織り込まれ、まるで自分もその場に立ち会っているかのような印象を読者に与えます。特に人々が生き生きしていて、親近感を覚えます。
タイトルには二重の仕掛け、作品そのものはシェークスピアへのオマージュ
『影の王』というタイトルには、二重の仕掛けがしてあります。これは、ラストまでのお楽しみです。
シェイクスピアのプライベートについては、資料が少ないため、よくわかっていないことも多いそうですが、この『影の王』は、「史上最大の劇作家」シェイクスピアに対する、作者のオマージュ、賛辞ではないかと思います。
もちろん、ナットの心理的成長がテーマであるとも思います。いずれにしろ、読後に感動を与えてくれる作品であることは、まちがいありません。
400年前は、「女優」の役をすべて少年俳優が演じた
また、400年前の演劇事情には作品中で触れられていますが、当時、「女優」は存在せず、女性の役はすべて声変わり前の少年が演じたそうです。
そのため、劇団は、おとなの男性と少年か、またはこの作品中の劇団のように、少年のみで構成されていたということです。
グローブ座については、「訳者あとがき」に述べられています。まず1599年に建てられましたが、1613年の火事で消失、同じ場所にすぐ再建されたものの、1644年に取り壊されました。その後、長い空白があって、1995年(平成7年)に再建されることになりました。
松本侑子さんの『イギリス物語紀行』にグローブ座に関する文章と写真
作家の松本侑子さんの『イギリス物語紀行』(幻冬舎文庫)に、この再建中のグローブ座に関する文章があり、写真も掲載されています。
グローブ座の工事現場に貼られていた、工事用のヘルメットをかぶったシェークスピアの肖像画や、天井に丸い穴が開いているというグローブ座の完成模型の写真などが掲載されています。写真はすべてモノクロです。
この『イギリス物語紀行』には、「十二夜」と「シェイクスピアのグローブ座」というふたつの章があり、シェイクスピアやグローブ座について述べられていますので、『影の王』を読んだ方には、興味深いと思います。
「十二夜」については、あらすじが数行にまとめられて、述べられています。
なお、第三グローブ座の完成・正式オープンは、1997年(平成9年)です。『影の王』で、少年劇団のメンバーがロンドンに乗り込んだのは、1999年(平成11年)の設定です。
作者スーザン・クーパーについて
作者のスーザン・クーパーは、1935年(昭和10年)イギリス生まれ。オックスフォード大学を卒業、新聞社に勤務。1963年(昭和38年)にアメリカに移住。
『コーンウォールの聖杯』(学研)に始まる「闇の戦い」のシリーズ(『光の六つのしるし』『みどりの妖婆』『灰色の王』『樹上の銀』 いずれも評論社)の三作目『灰色の王』で、ニューベリー賞受賞。
『古城の幽霊ボガード』(岩波書店)、『ネス湖の怪物とボガード』(岩波書店 品切れ・重版未定)などの著作があります。イギリス生まれですが、アメリカに移住して活躍されているため、冒頭の国名は「アメリカ」にしました。
さし絵画家小西英子さんについて
「絵」の小西英子さんは、京都生まれ。京都市立芸術大学大学院日本画科を修了し、現在は芦屋短期大学教授。
ルネッサンス美術に造詣が深いそうです。作品に『やっと会えた』、『三つのオレンジ』などの絵本があります。
訳者井辻朱美さんについて
訳者の井辻朱美さんは、1955年(昭和30年)東京生まれ。東京大学大学院比較文学科修了で、現在は白百合女子大学助教授。
著書に『風街物語』(アトリエOCTA)、評論集『夢の仕掛け』(NTT出版)、訳書に『妖精王の月』(講談社)『歌う石』(講談社)などがあります。
偕成社より出版
『影の王』は、偕成社より出版されています。22×16cmで、¥1,575(税抜き価格¥1,500+税5%)。
「全国学校図書館協議会選定図書」「日本図書館協会選定図書」、「パブリッシャーズ・ウィークリー年間ベストブック賞」受賞、「アメリカ図書館協会ベストブック・青少年部門」「ボストングローブ賞・次点」です。
出版社の年令指定は中学生から
出版社の目録による年令指定は、「中学生から」となっています。しかし、読みやすい文章である上に漢字の量が比較的少なめで、少し難しい漢字にはルビが振られ、活字のサイズも大きめなので、小学5年位でも読めると思います。
ただ、物語の舞台の大半が400年前の外国なので、館長の年令指定は「小6から」としました。
『影の王』関連のオンライン書店のページ
22×16cm (菊判と同じくらいのサイズのハードカバー)
影の王 (アマゾン)
影の王
(セブンアンドワイ)
シェイクスピアの劇場、グローブ座に関する記述のある本
イギリス物語紀行 幻冬舎文庫 松本侑子 著 (アマゾン)
イギリス物語紀行
幻冬舎文庫 松本侑子 著 (セブンアンドワイ)
このページの情報は、偕成社の目録、本のあとがきなどによります。
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