「魔法」に現代的な味付けをした大ヒットファンタジー
「ハリー・ポッター」シリーズは、主にヨーロッパの伝承や民話、神話などを基にした「魔法」に、現代的な味付けを施した冒険ファンタジーです。
世界中でベストセラーになり、映画も大ヒットして、そして2006年(平成18年)現在も進行中の超有名ファンタジーです。今では「ハリー・ポッター」の名を知らない人の方が珍しいでしょう。
第1巻目『ハリー・ポッターと賢者の石』の本国イギリスでの初版発行は1997年(平成9年)で、2006年(平成18年)7月現在、6巻目の『ハリー・ポッターと謎のプリンス』まで出版されています。
(追記 シリーズ7巻目であり、最終巻である『ハリー・ポッターと死の秘宝』の日本語版は、2008年7月23日に発売されました。)
構想5年、世界40ヶ国で800万人の読者、発行1億部以上
このシリーズは、1巻目の『ハリー・ポッターと賢者の石』の後書きによれば、作者のローリング女史にハリーのイメージが湧いて来てから執筆を始めるまでに、5年もかかったということです。
その、作者がイメージを文章として具体化する裏付けとなる文献を調べたり、整理したりで費やした5年間は、「世界40ヶ国で800万人の読者」という成果となって現れました。
「ハリー・ポッター」シリーズの出版社である静山社のホームページによれば、2002年(平成14年)7月当時の4巻までの発行部数は一億6千万部だそうです。
最初に「ホグワーツ魔法魔術学校」の構想を詳しく練る
『ハリー・ポッター裏話』(静山社)に、作者が最初に詳しく構想を練ったのは、「ホグワーツ魔法魔術学校」だとあります。作者自身が受けた教育の制度にのっとり、一学年に一冊という内容にするため、7部作ということは、その時点で決定されました。
作者が受けた中等教育が、11才から17才までだったからです。調べてみたところ、イギリスの学校制度は日本とはかなり違って複雑で、私立と公立では修業年限などが異なるそうです。
その後、シリーズの細部に渡って具体的な構想を5年間かけて練ったため、ストーリーに破綻がありません。
たとえば、1巻目の『ハリー・ポッターと賢者の石』では、物語の前半で登場する魔法関係のアイテムは後半でのストーリー展開に必要なもので、単に興味を惹くために作者が並べたものではありません。また、登場人物については、一人一人に完璧な履歴ができあがっているそうです。
1巻目で提出された謎が巻を追うごとに解けてゆく作り
現在、シリーズの6巻目まで発行されていますが、まず1巻目でシリーズ全体を通してのハリーを巡る大きな謎が提出されます。そして、巻ごとにハリーの成長に合わせて少しずつ謎が解けてゆきますが、登場人物が増えてハリーの過去がより深く、明らかになって行きます。
自分の運命が明らかになるに連れて、ハリー自身が取り組まなければならない課題も提出されます。
次作の7巻目が最終巻で、すべての謎が解けるはずです。ですから、6巻目まで読んだ読者は最終巻まで読まずにはいられないでしょう。
気がかりな最終巻の最終章
作者は、この最終巻の最後の章を1巻目の発売に先立って、書き終えていました。先日、新聞で読んだのですが、作者自身が『最終章では、主要な人物のうちの二人が「死」という結果を迎える可能性がある』と言及したようです。
主役のハリーも例外ではないらしく、ハリーのファンとしては心配なところです。
先に書き終えていた最終章を少し変更したそうですが、とにかく、次に発行される7巻目が最終巻であり、それで「ハリー・ポッター」シリーズが終了ということは、確実なようです。
このシリーズの魅力は子どもに親しみやすい文章と設定
このシリーズの魅力をいくつか挙げてみると、まず、子どもに親しみやすい文章と設定があります。
館長は英語版を読めませんので、日本語版の訳されたもののみについてしか語れませんが、日本語版の文章は子どもにも読みやすくて展開がスピーディ。漢字の多くにルビが振られています。小学校5,6年から読めるでしょう。
そして、孤児で親戚の家で冷遇されて育ったハリーが、だんだん「魔法」の世界に足を踏み入れて自分の活躍の場を得てゆく描写は、「シンデレラ」の少年版、または「家なき子」が幸せになるシーンを連想させるものがあります。
このあたりは子どもにとって共感できる部分で、読みながらわくわくするところでしょう。
「魔法」を「学校」で学び、「ほうき」はブランド化
また、「魔法」というちょっと得たいの知れないイメージのものを、きちんと体系化して学ぶ「学校」に位置づけたということも、子どもにはすんなり受け入れられるところです。自分たちも「学校」へは行っているわけですから、親近感があります。
同じような意味合いで、古い魔法使い(魔女)の象徴である「ほうき」を「ニンバス2000」などと名づけてブランド化したり、魔法界の空中サッカー「クィディッチ」を創設(?)してその「ほうき」を使うなど、多くの子どもたちにすぐなじめて、しかも楽しいムードがあります。
サッカーの盛んなヨーロッパのみならず、日本でもサッカーはポピュラーなスポーツになりましたから、「魔法」を駆使したスピーディな空中サッカー「クィディッチ」は、日本の子どもたちにも身近に感じられることでしょう。
「日常の中の危険」が冒険へ駆り立てる
また、ファンタジーにつきものの「冒険」の要素も、もちろん楽しめます。
「ホグワーツ魔法魔術学校」での日常生活は、一見平和に見えますが、ハリーの生い立ちにまつわる謎から派生した「危険」が常につきまといます。「日常の中の危険」というホラーっぽい要素があります。
これは『イギリス・ファンタジーへの旅』(晶文社)で著者の岩野礼子さんも指摘しています。
子どもたちの行動は、確かな価値観に基づくもの
この危険を察知した子どもたちは、自ら行動を起こしますが、この行動は確かな善悪についての価値観、倫理観に裏打ちされています。一部のキリスト教関係者からの「魔法」をモチーフにしたこのシリーズに対する批判は的はずれなものと思います。
素朴な自然信仰を攻撃し、悪いイメージを作り上げた教会
そもそも「魔女」とされたのは、キリスト教がヨーロッパに定着する以前の社会で、薬草の知識などに長けていて病気やけがの民間治療をした人々や、日本で言えば「八百万(やおよろず)の神々」への信仰と同じような、自然に対する素朴な民間信仰をしていた巫女のような人々です。
日本人にとっては、ごく自然に心の中に現在も脈々と受け継がれているこの「八百万の神々」への信仰のようなものが、初期のキリスト教教会にとっては、容認できないものでした。
そのため、教会側は「復活祭」「ハロウィン」「クリスマス」など、もともと古代ケルトで行われて人々の生活に深く根ざしていた行事を、キリスト教の祝祭としてすり替えて、「キリスト教」そのものを定着させようとしました。
春に行われていた祝祭「ベルティン」は「復活祭(イースター)」、晩秋の「サウエン」の祭りは「ハロウィン」、冬至を祝う「ユール」は「クリスマス」というように。
これについては、日本在住のアメリカ人ナチュラリスト、ケビン・ショートさんの『ドクター・ケビンの里山ニッポン発見記』(家の光協会)に、読み易い文章で述べられています。
「魔女狩り」は歴史的事実
しかし、この行事のすり替えをしても昔からの信仰を守り続ける人々をキリスト教教会は攻撃し、15世紀半ばから17世紀にかけて「魔女」という疑いをかけて、推定三万人から数十万人を虐殺しました。
醜い老女の「魔女」が大鍋で得体の知れない薬を作り、ほうきに乗って魔物の悪しき集会に出かけてゆく、という否定的なイメージは、この頃にキリスト教関係者によって作られたものです。
「自分たちの信じるものを信じないから」という理由で、罪の無い人々を殺し、否定的イメージを植えつけて、そのイメージはそのまま現在に至っています。
「魔法」のルーツはキリスト教以前の文化に
「魔女狩り」の結果、ヨーロッパから自然に対する民間信仰は消滅しましたが、その後19世紀ごろ、物質文明など当時の風潮に異を唱えた人たちが、古代の「ケルト文明」に注目し、音楽や文学などでこの「ケルト」を取り上げました。(多少、ナショナリズムとも結びついていたようです。)
レオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』で使用された音楽にケルトの面影が見られ、また、映画『キング・アーサー』が制作されるなど、19世紀以降から現在も、キリスト教以前の古代の文明に対する静かなブームは続いています。
昨今は、地球環境についての認識が高まり、「森の民」で自然に対する独自の哲学を持っていたケルト人・ケルト文化に関心を持つ人が増えています。「ハリー・ポッター」シリーズのモチーフとなっている「魔法」は、このようなケルト文化などのキリスト教以前の文化や、民間伝承、神話などにルーツがあります。
現在のキリスト教関係者の一部がこのシリーズを攻撃する理由については、「魔女狩り」の歴史などを考えると想像できます。しかし、宗教的しがらみのない日本の読者は、このシリーズを純粋に物語として楽しめることでしょう。
もちろん作者のストーリーテラーとしての才能が
しかし、設定やストーリー展開、価値観がいくら確かであると言っても、作者にストーリーテラーとしての才能がなければ、それを料理しておもしろい文章に仕立てることができないのは言うまでもありません。この作者の才能は、読んでいただければ、すぐ感じ取れるでしょう。
このシリーズは「ロー・ファンタジー」
このシリーズは、「ロー・ファンタジー」に分類されます。「ロー・ファンタジー」というのは、物語が現実社会から始まって、作者の設定した別の世界、現実とは違う世界に登場人物が行って冒険したり、また、逆に異世界からのキャラクターがこちらの世界に入り込んで展開してゆくファンタジーのことです。
登場人物がまず現実の世界から出発し、読者と共に異世界を少しずつ知って行くので、比較的読みやすいファンタジーです。
この「ハリー・ポッター」シリーズや、「ナルニア国ものがたり」の大部分の巻が、この「ロー・ファンタジー」に分類されます。
『指輪物語』や『ゲド戦記』は「ハイ・ファンタジー」
それに対して「ハイ・ファンタジー」は、物語の舞台が始めから、作者の作り出した異世界で展開されます。ファンタジーとして有名で、それぞれ映画化された『指輪物語』や『ゲド戦記』は、この「ハイ・ファンタジー」に分類されます。
「ハイ・ファンタジー」の読み始めは、とっつきにくいところがあります。その世界の設定は、作者の頭の中だけにあって、読者にはわからないからです。その世界の社会のしくみや、人物、動物などの能力も、飲み込むまで時間がかかります。
でも、その世界になじんでしまうと、これほどおもしろい世界はなく、まるでもう一つの実在する社会のように感じられる、というのもこの「ハイ・ファンタジー」です。現実が登場しない分だけ、架空の世界にはまり込んで楽しめるというところがあります。
作者自身のシンデレラ・ストーリーも話題に
作者はJ・K・ローリング。1965年(昭和40年)、イギリスのチッピング・ソドベリー生まれ。エクスター大学でフランス語と古典を専攻。いくつかの職を経てポルトガルで英語教師として働き、結婚。
出産した頃には『ハリー・ポッターと賢者の石』の三章まで出来上がり、他の部分は草稿のままでした。後に離婚し、イギリスへ戻りました。
一児を抱えて生活保護を受けながら『ハリー・ポッターと賢者の石』をコーヒー店で執筆したエピソードは有名。
その後出版された『ハリー・ポッターと賢者の石』は大ベストセラーになり、スマーティーズ金賞(イギリスの優れた児童書に与えられる権威ある賞)を始め、世界中の多くの賞を受賞。2000年(平成12年)にはイギリス女王からO・B・E勲章を授与されました。
2001年(平成13年)に映画化され、これも大ヒット。作者は億万長者になり、作者自身のシンデレラ・ストーリーも話題になりました。
表紙とイラストの画家はダン・シュレシンジャー
日本版の表紙とイラストを描いた画家、ダン・シュレシンジャーはイギリス、ロンドン在住のアメリカ人。ハーバード・ロースクールを卒業、弁護士として活躍後、画家に転向。
このシリーズの訳者である松岡佑子さんとは、20年来の友人同士で、『ハリー・ポッターと賢者の石』を訳者に紹介したのが、このダン・シュレシンジャーです。
イタリア版やドイツ版、フランス版の表紙はマンガのようなイラスト、デンマーク版やオランダ版は写実的な絵ですが、日本版の表紙は幻想的なイメージのパステル画で、想像力をかき立てるムードのある絵です。
訳者は静山社の社長、松岡佑子さん
訳者の松岡佑子さんは、30年のキャリアを持つ同時通訳者、翻訳家、そして静山社の社長。国際基督教大学卒、モントレー国際大学院大学国際政治学修士。
民衆史や闘病記などを出版し、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のための活動をしていた夫、松岡幸雄前社長の遺志を継ぎ、静山社の社長に就任しました。
ALS患者の闘病記や『英日国際会議用語辞典』を出版。1998年(平成10年)に友人のダン・シュレシンジャーから『ハリー・ポッターと賢者の石』を紹介され、この作品に強く惹かれて作者の代理人に2ヶ月に渡るラブ・コールを送り、版権を取ったエピソードも有名です。
『ハリー・ポッターと賢者の石』の翻訳に当たっては、友人、知人を中心に自然発生的にプロジェクトチームが組まれました。
小さな出版社であるにもかかわらず、この『ハリー・ポッターと賢者の石』の版権を取り、ベストセラーにした訳者は、2000年(平成12年)の日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。
日本では静山社から2サイズで出版
静山社から出版されています。
22cm(菊判ぐらいの大きさ)のハードカバーの堅牢な判と、18cm(B6判ぐらい)の携帯版です。2008年(平成20年)8月現在、22cmの判は全巻、携帯版は5巻まで出版されています。
出版社の年令指定はなし
出版社の年令指定はありません。前述したように、漢字の多くにルビが振られているので、小学5,6年から読めると思います。原作のコピーには「9才から」とあるようですが、日本版では漢字がネックになるので、9才ではちょっと無理かと思われます。
出版順の本のタイトル
以下のリンクは、このサイト内の本の説明ページに飛びます。
| 書名 (原作の初版発行年) | 22cm | 携帯版 |
| 1 ハリー・ポッターと賢者の石 (1997) | ¥1,995 | ¥998 |
| 2 ハリー・ポッターと秘密の部屋 (1998) | ¥1,995 | ¥998 |
| 3 ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 (1999) | ¥1,995 | ¥1,050 |
| 4 ハリー・ポッターと炎のゴブレット (2000) | ¥3,990 | ¥1,680 |
| 5 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 (2003) | ¥4,200 | ¥1,995 |
| 6 ハリー・ポッターと謎のプリンス (2005) | ¥3,990 | 未発売 |
| 7 ハリー・ポッターと死の秘宝 (2007) | ¥3,990 | 未発売 |
このシリーズは、多くの賞を受賞しています。とても挙げ切れませんが、その一部は、「スマーティーズ金賞」「ウィットブレッド賞児童書部門」「英国図書賞児童書部門」「プリ・ソルシエール賞」「スコットランド文化委員会児童書賞」「米国書店協会ブック・オブ・ザ・イヤー賞」など。
「ハリー・ポッター」シリーズ関連のホームページ
「ハリー・ポッター」シリーズの出版社
静山社
「ハリー・ポッター」に関する情報サイト
ポッターマニア
(特に映画の情報は詳細かつ膨大な量)
この物語の舞台であるイギリスの政府公認日本語公式サイト
UK NOWサイト
(イギリスに関するさまざまな情報を網羅)
このページの情報は、静山社のホームページ、「ハリー・ポッター」シリーズのあとがき、『ハリー・ポッター裏話』(静山社)、『ハリー・ポッターの魔法世界ガイド』(早川書房)、『ドクター・ケビンの里山ニッポン発見記』(家の光協会)などによります。
