菊判(21.8×15.2cm)・小B6判(17.2×12cm)
(イギリス)
フィリパ・ピアス 作
スーザン・アインツィヒ さし絵
高杉 一郎 訳
岩波書店
菊判 ¥1,995(本体価格¥1,900+税5%)
小B6判 岩波少年文庫 ¥756(本体価格¥720+税5%)
『トムは真夜中の庭で』のあらすじ(冒頭部分のみ)
トム・ロング少年は、夏休みに弟のピーターと一緒に楽しく過ごす計画を立てていましたが、ピーターがはしかにかかり、トム自身は母の妹であるグウェン叔母さんの家に預けられることになります。
叔母さん夫婦は、大きな邸宅だった建物を区切ってアパートにした、庭のない家の二階に住んでいます。
トムは暖かく迎えられます。しかし、叔母さん夫婦には子どもがいないせいか、トムの気持ちに理解が乏しく、特にアラン叔父さんは気難しいところがあります。
その上、はしかの潜伏期間が過ぎて、感染していないことがわかるまで外へ遊びにも行けず、トムは不満を抱えて過ごします。
過食による消化不良と、運動不足のせいで眠れなくなったトムは、夜中に一階のホールに置いてある古ぼけた大時計が、13回も時を打つのを聞いて驚き、こっそり一階へ降ります。
大時計の文字盤を読むため、月の光を入れようと裏口のドアを開けたトムは、ゴミ箱や住人の自動車が置いてあるだけ、と聞いていた裏庭に、広い芝生や木々がある大きな庭園が広がっているのを見ました。
1958年発表、カーネギー賞受賞の傑作タイム・ファンタジー
この『トムは真夜中の庭で』は、「タイムトラベル」もののファンタジーで、1958年(昭和33年)に発表されました。
第二次大戦後に発表されたイギリスの児童文学の中でも、きわめて優れた作品であると評価されており、カーネギー賞(イギリスで最も権威のある児童文学賞)を受賞しています。
河合隼雄さんの『ファンタジーを読む』で、極めて高い評価
臨床心理学者であり、文化庁長官(2005年現在)でもある河合隼雄(はやお)さんは、この作品に、その著書『ファンタジーを読む』(講談社+α文庫)の中で、極めて高い評価を与えて、ていねいにいろいろな角度から解説されています。
『トムは真夜中の庭で』を気に入られた方には、とても興味深い解説だと思われます。(但し、解説中にストーリーがすべて述べられていますので、未読の方にはお勧めしません。)
魅力的なシチュエーション
真夜中に大時計が13時を告げ、外にはあるはずのない庭園が広がっている。とても魅力的なシチュエーションです。
そして、ハードカバー版、少年文庫版共に、表紙に大きな邸宅と少年少女が描かれているので、読者はこの物語にこの二人と舞台がどう織り込まれるのか、期待されることでしょう。
時の扱い方がとても独創的なストーリー
「タイムトラベル」ものならではの「時」をあやつるおもしろさを、作者は緻密に計算して描いています。この作品での作者の「時」の扱い方は、とても独創的なものです。
そして、舞台となる土地や、庭園の描写などが生き生きとしていて、印象的です。
実在の地名と架空の地名を巧みに織り交ぜて印象的
土地については、実在の地名と架空の地名を巧みに織り交ぜたり、「イーリーの大聖堂」などという特徴のある建物を効果的に使ったりしています。
この物語の舞台は、イギリスの「低地地方」というところの周辺ですが、本の巻頭にはこの地方を含む地図が掲載されていて、この地図を見ながら読み進むうちに、読者には『トムは真夜中の庭で』イコール「イギリス、低地地方、イーリーの大聖堂」などという言葉がインプットされることでしょう。
但し、「訳者あとがき」によると、この作品中の「カースルフォド」という町の名は、作者が付けた架空のもので、実際は「ケンブリッジの大学町」のことだそうです。
ですから、文中にある「カースルフォド」は、地図を見る場合は「ケンブリッジ」と置き換えれば良いでしょう。
また、文中にはっきり言及されてはいませんが、トムの叔母さん夫婦の住んでいる町は、文章から地図上の「グレート・シェルフォド」(作者の故郷)と、推測できます。トムの家のある町は、「イーリー」以北のようです。
魅力的な庭園は、作者の父の庭園がモデル
そして、トムと少女が友情を育てる場所となる庭園の描写は、その木々や、芝生や温室、ガチョウたちまで、まるで読者の目の前に浮かぶかのようです。
作者の父は製粉工場を経営していて、大きな邸宅と庭園があり、この作品中で描かれる庭園は、作者の父の庭園を細かく、正確に描写したものだそうです。
トムの年令は、はっきり書かれてはいませんが、さし絵などから、大体10才から12才ぐらいのように思われます。
深い感動が心に残る結末
トムと少女の不思議な友情は、ヴィクトリア時代と現代が交差する中で育てられ、意外な結末を迎えます。
「時」を自在に操ってこの二人の友情を物語ってきた作者は、もつれた糸が一気にほどけるような、思いがけない、しかし、心温まるラストを用意しています。一見ささやかな、でも心に深く残る感動はラストまで読んだ者だけが味わえる特権です。
作者フィリパ・ピアスについて
作者のフィリパ・ピアスは1920年(大正9年)、イギリスのケンブリッジ州グレート・シェルフォド生まれ。児童文学の第一作は、1955年(昭和25年)に発表された『ハヤ号セイ川をゆく』(講談社 青い鳥文庫)。第二作が、この『トムは真夜中の庭で』。
他に『幽霊を見た10の話』(岩波書店 A5判 品切れ・重版未定)や、『真夜中のパーティ』(岩波少年文庫)などがあります。
フィリパ・ピアスは2006年(平成18年)12月21日に、86才で病気のため、死去しました。
さし絵画家スーザン・アインツィヒについて
「絵」のスーザン・アインツィヒは、1922年(大正11年)ドイツのベルリン生まれ。1938年(昭和13年)にベルリンで絵の勉強を始め、1939年(昭和14年)にイギリスへ渡り、ロンドンの中央美術学校で学び、1958年(昭和33年)にこの『トムは真夜中の庭で』のさし絵で、優れたイラストレーターとして評価されました。
詩情あふれる、繊細なタッチの絵です。ゴヤと、ボナールの影響を受けていると言われています。他には、E・ネズビットの『宝さがしの子どもたち』(福音館書店)のさし絵も描いています。
ふたつの判で出版
『トムは真夜中の庭で』は、菊判(21.8×15.2cm)と、小B6判(17.2×12cm)の「岩波少年文庫」の2つのサイズで岩波書店から出版されています。
価格は、菊判¥1,995(本体価格¥1,900+税5%)、 小B6判の岩波少年文庫は¥756(本体価格¥720+税5%)です。
年令指定は小5以上
出版社の目録による年令指定は、「小学6年、中学生から」となっていますが、岩波少年文庫のこの作品の裏表紙には、「小学5,6年以上」となっています。
活字のサイズが少々小さめの長編ですが、読みやすい文章なので、小学5年でも読めると思います。このページでは、少年文庫版の年令指定を優先しました。
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『トムは真夜中の庭で』関連のホームページ
『トムは真夜中の庭で』の出版社
岩波書店児童書編集部
この物語の舞台であるイギリスの政府公認日本語公式サイト
UK NOWサイト
(イギリスに関するさまざまな情報を網羅)
このページの情報は、岩波書店の目録・ホームページ、本のあとがきなどによります。