新書判
(日本)
川北 稔 著
岩波書店 岩波ジュニア新書
¥819(本体価格¥780+税5%)
「スイーツ」の原料「砂糖」の歴史をわかり易く述べた本
多くの人が大好きな「甘いもの」。「スィーツ」と称されてもいるようですが、その原料である砂糖が世界にどのような影響を与えて来たのか、地図や絵や写真(すべてモノクロ)を多く掲載して、わかり易く述べられた本です。
1996年(平成8年)7月に第一刷発行です。岩波ジュニア新書なので、中学生から読めると思いますが、おとなには肩の凝らない歴史書、雑学の本としても適していると思います。
紀元前4世紀に北インドで発見された「砂糖」
この本は9章から成り、その前後にプロローグとエピローグが加えられています。
第1章で、砂糖は紀元前4世紀にアレクサンドロス大王の兵士が北インドで発見したことや、その後17世紀にカリブ海の島々で、砂糖きびが栽培されるようになるところまで、述べられます。
カリブ海での栽培と、そのための奴隷貿易
第2章では、砂糖きびが栽培されるようになる前のカリブ海地域と、栽培されるようになってからの激変ぶりや、その栽培のための奴隷貿易について語られます。
17世紀以降ヨーロッパに伝えられた「茶」と共に広まる
第3章は、砂糖の用法と、17世紀以降にヨーロッパに伝えられた「茶」が特にイギリスにおいて、紅茶に砂糖を入れるという形で広まったことについて述べられています。
イギリスで流行した「コーヒー・ハウス」との関連
第4章では、17世紀後半から18世紀にかけてイギリスで流行したコーヒー・ハウスでの情報交換から生まれた組織(王立協会や証券会社、銀行、保険会社、政党など)について述べられています。
文学作品の評価や、政治についての議論もコーヒー・ハウスで行われていたそうです。このコーヒー・ハウスの担い手の多くは、奴隷貿易で豊かになった商人です。
ヨーロッパ諸国の飲み物事情も
第5章は、イギリスでの紅茶の密輸や、イギリスの植民地(後に、合衆国になるアメリカ)の事情が語られます。フランスやその他のヨーロッパ諸国の飲み物事情にも言及されています。
18世紀イギリスの人々の黒人に対する考え方も
第6章は、18世紀のイギリスの人々の、黒人の召使に対する考えや、砂糖の生産過程で生じる残りかす(糖蜜)を醸造して作られたラム酒の貿易について述べられます。おまけ(?)として、日本の砂糖業についても述べられています。
産業革命の影の立役者「砂糖」
第7章は、まず、ヨーロッパの人々には日本人のような「主食」と「副食」という考え方はなくて、日本人なら「副食」と思うものばかりを食べても「食事」になっている、という記述から始まります。
18世紀末から19世紀始めにかけてのイギリスの産業革命に伴い、都会での工場労働者が増加したため、短時間で「カフェインを多く含む即効性のカロリー源」として、砂糖入り紅茶が「食事」に取り込まれたことなどが、語られます。
奴隷貿易や奴隷制度の廃止について
第8章 は、19世紀イギリスの社会事情と、都会の労働者の生活を守るため、砂糖の価格引き下げが必要になったことから波及して、奴隷貿易や奴隷制度の廃止に至る過程などが述べられています。
砂糖きびの代用ビート(砂糖大根)にも言及
第9章 は、熱帯の植民地を持てなかった国などで、砂糖きびの代用として栽培されるようになったビート(砂糖大根)について述べられます。(日本では、現在も北海道で栽培されています。)
現在の生産量は、砂糖きび糖60%、残りはビート糖やその他の糖ということのようです。
ひとつの商品から世界史を見て行く方法「世界システム」論
エピローグでは、国別や年代ごとに記述するのではなく、「砂糖」というひとつの商品を取り上げて、近代の世界史を見て行くこの本の方法について述べられています。
このような方法は、「世界システム」論といい、またそれにプラスして、「歴史人類学」という歴史上の人々の生活を物や慣習などを通して観察する学問の方法を使ってあるそうです。
教科書よりも、歴史が身近に感じられる「世界システム」論
このような記述方法を教科書で採用することは、できないかも知れませんが、読者にとっては歴史を身近に感じられて、いろいろな歴史上の出来事のつながりも見え、とてもおもしろい方法だと思えます。
現在の南北問題の原因の一端である「砂糖」
現在では、料理の味付けやお菓子の材料として使われている砂糖が、当初は「薬」として珍重されたなど、おもしろい事実も多々知ることができますが、この本の内容は、「奴隷」という言葉に象徴される、重いものを含んでいます。
現在の世界の「南北問題」の原因の一端が、理解できると思われます。
第6章の扉絵に使われている、黒人の赤ちゃんのせりの場面を描いた絵に、奴隷制度というものが端的に表現されているように思います。
特に、中学生や高校生に読んで欲しいと思う本です。
著者について
著者は、1940年(昭和15年)大阪市生まれ。文学博士で、この本の第一刷発行時は大阪大学文学部教授。(現在は名古屋外国語大学教授、大阪大学名誉教授、英国王立歴史学協会会員。)
『史的システムとしての資本主義』、『現代イギリス社会史 1950―2000』など著訳書多数。
岩波ジュニア新書について
なお、岩波ジュニア新書は、目録にも本自体にも、はっきりと「中学生から」と、記載されているわけではありません。「ジュニア」という言葉の解釈もいろいろありますが、「若い世代向け」ということは確かで、本の内容や、「ジュニア新書」と銘打ってあることから、出版社による「中学生から」と解釈しています。