新書判
(日本)
南條 竹則 著
文芸春秋(文春新書)
¥746(本体価格¥710+税5%)
「ドリトル先生」を通して19世紀のイギリスを語る本
2000年(平成12年)10月に、第一刷発行。この本は岩波書店から出版されている「ドリトル先生物語全集」の舞台となっている、19世紀イギリス社会について、物語の各エピソードを取り上げながら、うんちくを語るものです。
「ドリトル先生」の物語を取り上げてはいますが、一般向けの文春新書ですから、小学生には難しすぎます。
子どもの頃「ドリトル先生」の物語の愛読者だったおとな、またはイギリスやイギリスの歴史に興味を持っているおとなを読者に想定している本だと思います。難解な文章ではありませんが、言い回しなどはおとな向けです。
でも、小学生の頃「ドリトル先生」に親しんだ、世界史に興味のある中学生なら、少々難しめながらも、読み進められるでしょう。
いずれにしろ、「ドリトル先生」の物語ファンに、楽しく読めるうんちく本です。
「ドリトル」について、そして住・娯楽・食・風物・宗教などを語る
この本で取り上げられている分野は、さまざまです。冒頭での、「ドリトル先生」の名前についての著者の解釈から始まり、19世紀イギリスの住環境や庶民の娯楽、食生活、女性の地位、風物、人種観、宗教についてなどが、「ドリトル先生」の物語の各エピソードを通して語られます。
その文章には、英文学者である著者ならではの、日本ではあまり知られていないイギリスの小説や詩の引用や、各種の事典からの引用もあり、説得力と読み応えがあります。
たとえば、動物たちの劇の原型は「ハーレクイン劇」
たとえば、「ドリトル先生」は借金返済のため、動物たちと共にサーカスに参加して、いろいろな出し物をするのですが、その中のひとつである動物たちの芝居の原型となっている「ハーレクインの無言劇」について、詳しく述べられています。
アガサ・クリスティーの『戦勝記念舞踏会事件』という短編がありますが、この作品には「ハーレクイン劇」の衣装が事件解決の重要なカギとして使われます。
ドリトル先生のサーカスの演目と、クリスティーの作品に共通点があったとは、両方の作品の愛読者にとっては楽しい発見でしょう。
「アブラミのお菓子」や「オランダボウフウ」についても言及
その他にも、「これはどんな物なんだろう?」と思っていた「アブラミのお菓子」や「オランダボウフウ」(いずれも、岩波書店の「ドリトル先生物語全集」の井伏鱒二訳)についての説明もあります。
もちろん、一部に批判のある、有色人種に対する表現にも触れ、当時のイギリス社会の価値観について述べられています。
この問題については、様々な意見があることでしょう。しかし、実際に「ドリトル先生物語全集」やこの『ドリトル先生の英国』をお読みになった上で判断していただきたいと思います。
この著者の意見は、「ドリトル先生」の物語中での「人種問題」をどう考えるかの、参考になると思います。
番外編『ガブガブの書』についても
また、ドリトル先生の動物の家族の一員である、ガブガブが書いたという設定の「ドリトル先生物語全集」の番外編についても、触れられています。
その番外編は、『Gub Gub's Book ガブガブの書』というタイトルで、1932年(昭和7年)に発表されたものです。本編の『ドリトル先生月から帰る』と『ドリトル先生と秘密の湖』の間の期間に発表されたことになります。
この『ドリトル先生の英国』では、この本は邦訳されていないし、原書も絶版になっていると述べられています。しかし、『ドリトル先生の英国』の出版の2年後、2002年に著者の南條竹則さんの訳で、『ガブガブの本』というタイトルで国書刊行会から出版されました。
ガブガブの書いた食物をモチーフとした十篇の物語を収録した本で、本編に劣らず楽しい物語ですから、こちらも「ドリトル先生」の物語ファンにはおすすめです。
著者の南條竹則さんについて
著者の南條竹則さんは、1958年(昭和33年)東京生まれ。東京大学大学院英語英文学修士課程を修了。英文学者、作家。
『酒仙』(新潮文庫)で第五回の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
他に、『万漢全席』(集英社文庫)、『恐怖の黄金時代ー英国怪奇小説の巨匠たち』(集英社新書)などの著書、『怪談の悦び』(創元推理文庫)、『幽霊船』(国書刊行会)などの訳書があります。
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