A4変型
(アメリカ)
ウィリアム・スタイグ 作
瀬田 貞二 訳
評論社
¥1,365(本体価格¥1,300+税5%)
アメリカの絵本作家、ウィリアム・スタイグの絵本。読み聞かせに向く絵本です。文章に漢字が少々ありますが、そのほとんどにルビが振られています。
なお、この絵本の旧版の題名は、「小石」がひらがなでした。2006年(平成18年)2月の新版から漢字の「小石」に変更されています。
『ロバのシルベスターとまほうの小石』のあらすじ(半分位まで)
むぎ谷村のドングリ通りに、両親と一緒に住んでいる子ロバのシルベスター・ダンカンの趣味は、変わった形や色の小石を集めることでした。
夏休みのある日、赤く光った丸い石を見つけたシルベスターは、その石を持ったまま願い事をすると、望みが叶うことに気付きました。その石は、魔法の石でした。
喜んだシルベスターは両親の元へ急ぎ帰ろうとしますが、途中のいちご山でばったりライオンに出会ってしまいます。
慌てたシルベスターは、とっさに岩になることを願い、難を逃れます。しかし、岩になったせいで、今度は元に戻ることができません。魔法の石がすぐそばにあっても、それに触ることができないのです。
一方、かわいいシルベスターが戻らず、心配した両親は、自分たちで探し回ったり、警察に行ったりしましたが、シルベスターの行方はわかりません。
むぎ谷村のたくさんの犬たちも、シルベスターを探してくれましたが、岩になってしまったシルベスターはもうロバの匂いがしないので、やっぱりわからずじまいです。
岩になったまま、どうすることもできないシルベスターと、悲しみにくれるダンカンさんご夫婦。そのまま月日が過ぎて、季節が巡ってゆきます。
意外なストーリー展開が楽しめる物語
後から考えると、もっと良い方法があったのに、とっさに慌てて取った解決方法のせいで泥沼に入り込んでしまう。シルベスターに限らず、誰でもありがちなことです。
文字通り、手も足も出ないシルベスターと、いったい何がどうなったのかわからないまま、悲しみの中で過ごさなければならない両親の姿を見て、読者は「なんとかしてあげたい」とやきもきし、「結末はどうなるのか」と興味をそそられます。
「魔法の小石」が登場した後、子ども向けの絵本としては意外なストーリーで、大団円への展開もおもしろい物語です。
実は、主役はダンカンさんご夫婦
この絵本の題名は、『ロバのシルベスターとまほうの小石』となっていますが、読んでいて印象的なのは、シルベスターではなくて、両親のダンカンさんご夫婦です。
帰って来ないシルベスターを心配して駆け回り、自分たちにできる精一杯のことをするダンカンさんご夫婦。そして訳もわからぬままに、辛い毎日を過ごさなければならないふたりですが、辛いながらも前向きに生きようとする姿勢が、奇跡を生みます。
この前向きな姿勢がなければ、大団円はありませんでした。館長には、この物語の主役はダンカンさんご夫婦に見えます。
こどもなら、大団円に楽しい気持ちになるでしょうし、苦境にいる大人が読めば、勇気づけられるかも知れません。自分のできることをしても思うように行かず、解決方法が見出せないこともまま、あるものです。そういう苦境にある人への、作者のちょっとした応援歌ととることもできそうです。
動物たちの表情にも注目を
この絵本の画材は、ペンと水彩絵の具が中心のようです。マンガ家でもあった作者の手になるかわいらしい印象の絵は、動物たちの心情を巧みに表現しています。特に、ダンカンさんご夫婦の表情は、微妙な気持ちをわずかな線で的確に表現していると思います。
この絵本は、絵による表現を重視するという「コルデコット賞」を受賞していますが、それも頷けます。
『わが子をひざにパパが読む絵本50選』でも紹介
この絵本は、このサイト内の「本のガイドブック」フロアの『わが子をひざにパパが読む絵本50選』で取り上げられています。実は館長がこの『ロバのシルベスターとまほうの小石』の存在を知ったのは、この本からです。
この『わが子をひざにパパが読む絵本50選』では、この物語の結末は紹介されていなかったので、「いったい、どうやって解決するんだろう?」と興味を持って、読みました。読んでみて、大団円への展開に「なるほど!」と納得でした。
出版社の年令指定は、「幼稚園〜小学初級」ですが、先に述べたようにおとなも楽しめて、読後に明るい気持ちになる絵本です。
作者のウィリアム・スタイグについて
作者のウィリアム・スタイグは、1907年(明治40年)アメリカのニューヨーク生まれ。1930年(昭和5年)に23才で雑誌「ニューヨーカー」にて、マンガ家デビュー。その後、マンガ以外にも絵本や物語の作家としても活動しました。
この『ロバのシルベスターとまほうの小石』のアメリカでの初版発行は1969年(昭和44年)で、翌年のコルデコット賞を受賞しています。コルデコット賞は、アメリカの優れた絵本に贈られる賞で、特に絵の表現力を重視するそうです。
この本の日本での初版発行は、1975年(昭和50年)です。
他に、『アベルの島』でニューベリー賞受賞。ニューベリー賞は、やはりアメリカの優れた児童書に贈られる賞で、1922年(大正11年)創設の世界初の児童文学賞です。
また、『みにくいシュレック』(セーラー出版)は、映画『シュレック』の原作です。この他にも多くの作品を発表しています。
ウィリアム・スタイグは、2003年(平成15年)に亡くなっています。
訳者の瀬田貞二さんについて
訳者の瀬田貞二さんは、「ナルニア国ものがたり」シリーズのページでも触れましたが、1916年(大正5年)生まれ。児童文学の創作、翻訳、批評家で、トールキンの『ホビットの冒険』『指輪物語』の名訳者としても、よく知られています。多数の訳書があります。