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   『中世の城日誌 少年トビアス、小姓になる』 

『中世の城日誌 少年トビアス、小姓になる』 この画像はリンクしていません

B4判変形 33.6×25.9
(イギリス)
リチャード・プラット 文
クリス・リデル 絵
長友 恵子 訳
岩波書店
¥2,520(本体価格¥2,400+税5%)


13世紀のイギリスの暮らしを描いた絵本

この絵本は、13世紀のイギリスの人々の暮らしを、11才の少年の視点から描く、という設定の作品です。

トビアス(愛称トビー)・バージェス少年が、伯父の城に小姓修行のために滞在した1年間を、トビー自身が母親に後で報告するために「日誌」を書き綴った、という形になっています。

2003年(平成15年)、第一刷発行。


多くの参考文献に裏打ちされた文化・風習の描写

日本の読者にはとても珍しい、中世イギリスの文化・風習が丁寧に細かく描かれている絵本です。「文」のリチャード・プラットと「絵」のクリス・リデルは、時代考証のために60冊以上の文献に目を通したそうです。

正確さは、かなり期待できると思います。

主人公の少年を設定、ユーモアと共にエピソードをつなぐ

13世紀当時のイギリスを描く、という単なる「歴史絵本」ではなく、トビー少年の1年間のいろいろなエピソードは生き生きとしていて、ユーモラスな味わいもあり、「物語」として捉えて「絵本フロア」に入れようかと少々迷いました。

しかし、この絵本は、トビー少年の成長を描くというよりは、当時のイギリス社会を、トビー少年の眼を通してわかり易く、楽しく読者に知らせる、という要素が強いと思われましたので、この「物語以外の絵本フロア」の「歴史」の項に入れました。

人によっては、「物語」に迷いなく入れるかも知れません。それ位、ストーリーと歴史の融合に成功している作品です。

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1ページ目は主人公の少年の旅立ち

1ページ目には文章はなくて、質素な館の前でトビー少年を見送る父母と二人の妹、そして父の従僕と共に伯父の城目指して、雪の積もった道を馬に乗って出かけるトビー少年が描かれています。新しい世界への静かな旅立ち、といったところです。

2ページ目は主な登場人物の紹介

次のページには、伯父一家と、トビーの仲間となる小姓三人組、そして伯母付きの召使い兼話し相手でもあるイズベルが描かれ、当時の服装に一気に中世に引き込まれます。

(ついでに、伯父の城の猟犬も描かれ、これがちょっとこわい顔。)

大型本のサイズを活かし迫力のある城の描写

見た途端に「大きい本だ」とまず感想が出る33.6×25.9cmというサイズを生かして、伯父の居城の全体像や、城の内部、武術試合、宴会の様子などが描かれ、迫力があります。

絵は見ごたえがあり、文章にはユーモアが漂って、当時の文化の珍しさもあり、少しでも歴史に興味がある人なら、楽しく読み進められると思います。

文章だけでなく「絵」にもユーモア

実は文章だけでなく、「絵」にもユーモアがあります。クリス・リデルの絵はペン画少々、大部分はペン+彩色、なのですが、最初見たときは、「ヨーロッパ版水木しげるか?」と思いました。(べつにおどろおどろしい訳ではありません。)

リアルと言えばリアルで、伯母やその他の女性たちも美化されず、つい「もうちょっと美人に描いてあげたら」と思うほどなのですが、これが慣れてくると「かんたんに美化しないところが良い」と思えて来ます。

生き生きとした人間や動物たちの表情の豊かさも見どころ

冒頭で、目つきが悪いと思った猟犬も、トビーの具合が悪くなったときは、「おい、どうした」とでも言いたげに目を剥いております。(ただし、狩りのときは迫力があってこわい。)

数々のエピソードは実際に読んでいただくとして、このクリス・リデルの描く人間や動物の表情の豊かさは、見どころのひとつです。とても生き生きしています。

封建時代に生きた人々への共感も

現代人が封建時代を想像すると、苦しくて不便なことが多かったんだろうと考えがちになると思うのですが、その社会の中で、人間はいろいろな楽しみを見つけて、それなりにエンジョイして生きたのではないか、とこの絵本を見ると感じます。

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主人公の少年を通して当時の社会制度に触れる

トビー少年の方は、到着時から順応性を発揮してだんだんに小姓仲間や、城内の人々、村人とも親しくなり、結構楽しく過ごしています。

小姓とは言うものの、「お館様」の甥なので、他の小姓仲間よりもちょっとだけ、特別待遇もしてもらえます。それでもなかなか気の良い少年なので、城内の人々にもかわいがられて(からかわれて)おります。

楽しく読み進みつつも、「小姓とは何か」とか、「なぜ11才で親元を離れるのか」とか、「兄の男爵は大きな城に住んでいるのに、弟であるトビーの父の館が小さくて質素なのは、落差がありすぎではないか」とか、いろいろ疑問が浮かんで来ます。

巻末に身分制度についや城について詳しい説明

こんな疑問に答えてくれるため、巻末に、身分制度や城について、また戦いの方法や武具などについて、イラスト入りでわかり易い説明があります。

鎧一式を身につけると30キロもあるとか、騎士は職業軍人だが、鎧一式と軍馬は高価なので、お金がないとろくな鎧を手に入れられないとか。この説明を読んでからもう一度本文を読み返すと、よりおもしろく感じます。

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年令指定は小4,5年から

出版社のホームページによると、対象年齢は「小学校4,5年から大人まで」となっています。少しむずかしい漢字にはルビが振ってありますので、小4でも読めるとは思います。

ただ、絵本としては結構文章の量が多いので、この分野に全く興味がないと、小4では無理かも知れません。逆に、おとなの方が充分楽しめる作りと思います。

この本は、「ケイト・グリーナウェイ賞」次点、「産経児童出版文化賞」、「JR賞」受賞作品です。

「文」はリチャード・プラット

「文」のリチャード・プラットは1953年(昭和28年)生まれのイギリスの作家で、日本では「輪切り図鑑」シリーズ(『クロスセクション』、『大帆船』、『ヨーロッパの城』)3冊が、岩波書店から出版されています。

「絵」はクリス・リデル

「絵」のクリス・リデルは1962年(昭和37年)生まれのイギリスのイラストレーターで、この『中世の城日誌』は「ケイト・グリーナウェイ賞」次点でした。同じコンビによる『海賊日誌 少年ジェイク、帆船に乗る』で、「ケイト・グリーナウェイ賞」を受賞しました。


『中世の城日誌』のオンライン書店のページ

B4判変形 33.6×25.9

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『中世の城日誌』の出版社
      岩波書店児童書編集部


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