B4判変型(33×23.1cm)
(日本)
服部(はっとり) 幸雄 文
一ノ関 圭 絵
岩波書店
¥2,730(本体価格¥2,600+税5%)
歌舞伎の舞台を狂言見習いの少年の眼から描く
2001年(平成13年)第一刷発行。この絵本は、江戸時代に生まれて発展した歌舞伎の舞台を、狂言作者の見習いとして入門した、千松(せんまつ)という少年の眼を通して語る形で描かれたものです。
巻末の解説は他の巻と異なり「歌舞伎」全般について
左開きで、すべて見開き2ページでひとつの絵になっています。巻末の解説は、他の巻とは少し異なっています。他の巻では4章か5章に分けられていた解説は、この巻では章立てせずに、「歌舞伎」全般について述べられています。
個々の絵も、縮小コピーを巻末に掲載して説明
また、個々の絵についての説明には、絵本部分の見開き2ページの絵を白黒にして縮小した図が掲載されて、その図の中のいろいろなものに番号(@、Aなど)が振られて、それを元にして詳しく説明されています。
歌舞伎用語の説明はかなりのボリューム、中学生以上向け
日常生活では使わない、なじみの無い歌舞伎の用語のていねいな説明の文章ですから、他の巻の説明よりもかなりボリュームがあります。「歌舞伎」全体に対する説明文よりも、文字のサイズも小さめです。
白黒の図に振られた番号と対応させてカラーの絵のページもめくって見ながら説明を読んで行くと、おもしろいのですが、時間も少々かかります。
ですから、この文章は、中学生以上の方に向く文章かも知れません。
絵本の部分は小学生も楽しめる「歌舞伎入門書」
但し、絵本の部分は、予備知識ゼロの小学生も十分楽しめると思われますので、歌舞伎に興味があれば小学校高学年でも、この説明は読めると思います。いったん興味を持つと、どんどん読み進められるでしょう。
また、歌舞伎にあまり興味がなかったおとなにも、この絵本は「歌舞伎入門書」として楽しく読めると思われます。
「絵本部分」→「解説」→「絵本部分」の順に読むと楽しめる
始めに絵本部分を眺めて、解説と、個々の絵に対応する説明を読んでから、もう一度絵本部分を見直すと、また新しい(歌舞伎のことが少しわかったような)気分で、楽しく読めます。
江戸時代の人々にとって、歌舞伎見物はとても大きな楽しみだったことも伺えます。
江戸時代の「文化・文政期」の芝居小屋が舞台
絵本は、江戸時代の文化・文政期(1804〜1830)の芝居小屋、中村屋が舞台です。まず歌舞伎の名優たちの船(ふな)乗り込みから始まり、細かい準備の部分から描かれます。
初日の描写や役者たち、幕開け、劇の演出の仕掛けから終わりまで、細かい丁寧な絵で描かれます。
縦長のサイズを活かして細かい描き込み、大胆な構図
その後に芝居小屋の構造が、1ページを横に使って描かれています。
この巻は、他の巻よりも縦長のサイズのB4判変型(33×23.1cm)で、その見開き2ページという大きさを活かして、建物内のたくさんの観客やいろいろな道具類を、細かく描き込んでいます。
芝居小屋の構造を理解できるように、さまざまな角度から工夫を凝らした構図も大胆です。じっくり見て行くと、時の経つことも忘れそうです。
『江戸のあかり』の油絵風とは全く違うタッチ
絵の画材は、ペン、筆、水彩絵具などのようです。「絵」の一ノ関圭さんは、この「歴史を旅する絵本」シリーズの『江戸のあかり』でも、「絵」を担当されていますが、『江戸のあかり』の油絵風の写実的なタッチとは全く違っています。
一部にフィクションを取り入れてて「歌舞伎」を絵本に
少々、注意事項もあります。この絵本は、確かな資料に基づいて想像したものが描かれていますが、絵本として「歌舞伎」を表現するため、いくつかのフィクションを取り入れています。
「船乗り込み」は大坂だけの習慣
たとえば、名優が大坂の劇場にやって来るときの催しである船乗り込みは、大坂だけの習慣だったそうです。しかし、この絵本では、江戸の隅田川に船乗り込みをしたら、という想像で描いています。
技術者集団も実際には別々の場所で仕事をしていた
また、この絵本では、ひとつの劇場内に、さまざまな技術者集団が割り当てられた場所で仕事をしているように、描かれています。しかし、実際には、別々の自分たちの工房内で作業していたそうです。
この本ではあえて、その工房を一ヶ所に集めて描くことで、歌舞伎を上演するために、陰でどれほどの手仕事が必要だったかが、一目で理解できるようにしたということです。
いろいろな狂言の場面を抜き出して集めて描く
そして、上演される狂言も、特定のひとつに限定して描くと、特色のある扮装や、おもしろい演出を紹介できないので、いろいろな狂言の場面を抜き出して集めて描いているということです。
これらは、巻末の説明に詳しく述べられています。
観客の中に当時の有名人が
それから、二次的な楽しみが二つほど、仕掛けられています。絵の観客の中に、当時の有名人たちが描かれています。
巻末の説明の白黒の縮小図に、ア・イ・ウなどと振られていて、「この人は誰?」というようなクイズ(?)になっています。答えは巻末のページにあります。
千松少年を探す楽しみも
そしてもうひとつは、この絵本の語り手である千松少年。ほとんどのページに千松少年が描き込んでありますので、こちらは「ウォーリーをさがせ!」風の「探す楽しみ」があります。
絵本の扉絵で囲炉裏(いろり)の火に手を差し伸べているのが千松で、始めと終わりはこの着物姿、上演中は黒衣(くろご)に着替えます。
「文」は服部幸雄さん
「文」の服部幸雄さんは、1932年(昭和7年)、愛知県生まれ。国立劇場芸能調査室主任専門員、千葉大学教授、日本女子大学教授を経て、現在は千葉大学名誉教授。専門は、歌舞伎研究。『大いなる小屋』『江戸歌舞伎の美意識』など、著書が多数あります。
「絵」は一ノ関圭さん
「絵」の一ノ関圭さんは、1950年(昭和25年)秋田県生まれ。マンガ家。前述したように、この「歴史を旅する絵本」シリーズの『江戸のあかり』の「絵」も担当しています。