29.8×23.7cm
(日本)
勝俣 鎮夫(しずお)文
宮下 実 絵
岩波書店
¥2,415(本体価格¥2,300+税5%)
戦国時代を近畿地方の一少年の日記の形で描く
1988年(昭和63年)第一刷発行。この絵本は、戦国時代(1467〜1568)の近畿地方の村に住んでいた少年の一年間の日記の形を取っています。実在の日記を参考にしたため、場所が特定されています。
舞台は現在の大阪府泉佐野市
舞台は「和泉国日根郡日根野荘日根野・入山田村(いずみのくに、ひねぐん、ひねののしょう、ひねの、いりやまだむら)」、現在の「大阪府泉佐野市字日根野・大木(おおぎ)・土丸(つちまる)」です。
日根野荘の領主、九条政基の日記を参考に描く
参考にした日記は、日根野荘の領主、九条政基(まさもと)(1445〜1516)が、1501年に荘園を守るため、現地に行った時に書いた『政基公旅引付(まさもとこうたびひきつけ)』です。
語り手の少年は村の指導者の子ども
この絵本の語り手である少年は、村の指導者である農民の子どもで、両親と姉の四人家族という設定です。シリーズの他の本と同じように、左開きで見開き2ページでひとつの絵、絵の下には2行の文が付けられています。
農民たちの一年を春から季節を追って描く
物語は春の山菜取りから始まります。山菜を取りに山に登ったこと、わらじ作り、お節句、田植え、大雨のせいで蒙った被害に対する対応などが描かれます。
そして農業技術の未熟だったこの時代に、飢饉につながって行く天候不順や、侍たちとの攻防など、戦国時代を象徴する出来事が描かれます。
その年は凶作になり、その後、餓えに苦しんだ村人が食料を盗み、それに対する厳しい処罰(死刑)が描かれます。
単なる行政区分ではない「村」の厳しい掟
戦国時代は、行政側の力が弱まって、「下克上」の時代だったため、小さな村も戦火を免れられませんでした。
そのため、現代のような行政区分としての「町」や「村」ではなく、同じ地域で生活する者たちが自分たちの暮らしを守るために作り上げた、独立性と自治性を持った強い団結の集団が、「惣(そう)」や「惣村(そうそん)」と呼ばれた村でした。
初めてこの絵本を読んだときは、餓死者も出るほどの飢饉のときに、食べ物を盗んだことに対するこの処罰は厳しすぎるのではないか、と思われました。
しかし、この時代は農業技術が未熟で、人々は一日二食で慢性的に空腹を抱えていて、いつ侍たちに攻められて食料を奪われるかも知れませんでした。
治安を担当する組織もない社会では、村人が力を合わせて厳しい掟を決めて守らなければ、村は維持して行けなかったのでしょう。
戦国時代を子どもにもわかる形で描いた貴重な絵本
「戦国時代」と言えば、武田信玄や上杉謙信など有名な武将の名がすぐ浮かぶ人も多いと思われます。しかし、この絵本に描かれたような、一般の人々の暮らしの実際は、映画やTVドラマでは添え物程度に描かれているだけです。
そのような中で、現代の人間の価値観では計れない時代を、庶民の眼から子どもにもその輪郭が伝わるように描いた、貴重な絵本です。児童図書という枠を超えて、おとなにも読み応えのある絵本です。
巻末には戦国時代の村人たちの暮らしについての解説があります。
個々の絵に対応する説明は、9割がたの絵に付けられています。
「戦国時代」の区分について
なお、この本では「戦国時代」の区分を「1467〜1568」としています。1467年は応仁の乱が起こった年です。館長の参照した他の本では、「戦国時代」を「1467〜1573」としているものもあります。
1568年は、織田信長が足利義昭を十五代将軍とした年、1573年は織田信長が将軍義昭を追放した、室町幕府滅亡の年です。
現代的な画風で中世を描き、おもしろい雰囲気
この絵本は、日本の中世を描いているのですが、画材はペンと色鉛筆などのようです。日本画風ではなく、現代的な画風で「中世」が描かれ、おもしろい雰囲気が生れています。
「文」は勝俣鎮夫(しずお)さん
「文」の勝俣鎮夫さんは、1934年(昭和9年)東京生まれ。日本中世史の専攻で、この本の第一刷発行時は、東京大学教授でした。
「絵」は宮下実さん
「絵」の宮下実さんは、1939年(昭和15年)旧満州生まれ。国画会会員です。